感染   作:saijya

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第15話

「......田辺さん、実感は湧かないと思うけど、こっちの状況を一言で表すなら、弾丸の数だけ命が延びる、だ。遠賀は両空港から距離的に中間にあたる。とてもじゃないが、そこまではいけない。恐らく、ヘリかなにかでこちらに向かう計画だろうけど、空港は諦めてくれ」

 

そうですか、と田辺が肩を落とした。気の毒ではあるし、代替案を提案出きるのかと問われれば、浩太も口ごもってしまうだろう。

だが、これは、紛れもない事実だ。

 

「では、高いビル群がある街などは近場にありますか?」

 

顎に手を当てて、しばし熟考する。近場でという条件下であれば、黒崎などが該当するが、ヘリコプターが着陸できるだけの面積がある広い屋上を有するビルなどあるとは思えなかった。

祐介は、黒崎駅の真横にあるコムシティであれば、どうにかなるのでは、と提案したが、建物の内部が複雑に入り組んでいるので死者に襲われれでもすれば、ひとたまりもないと却下した。

では、あのビルならば、あのホテルならば、そんな思慮を巡らせ続けるが、やはり、どこも現実味を帯びるには、いささか物足りなく、頭を抱えた浩太は悪態をつく。そんなとき、祐介が更にポツリ、と呟いた。

 

「......小倉駅の裏口に建っている、あるあるシティはどうですか?」

 

「あるあるシティ?」

 

浩太のおうむ返しに、祐介は頷いて答える。

 

「はい、あそこなら、ビル内も単純ですし、立体駐車場なんかも隣接してます。その分、屋上にも広いスペースがあると思いますけど......」

 

妙に言葉を濁した祐介は、一度区切りながらも、真っ直ぐに浩太を見据えて言った。

 

「商業施設なので、屋上には空調設備などがあるかもしれません、中間のショッパーズモールみたいに、等間隔で並べられた消火栓ホースを収納するボックスがあれば、着陸できないかもしれない......」

 

「いや、良い視点を貰えた。小倉になら背の高いビルは多いな......なら、リバーウォークとかなら......」

 

今度は祐介が首を横に振る。

 

「駄目です。コムシティ以上に複雑な上に、建物は横に広いし、見た目の問題でしょうけど、大きな吹き抜けもありますから、厳しいでしょう」

 

「なら、チャチャタウンも厳しいか......そもそも、あそこは背が低いし、死者から追われた場合、時間を稼げない......やっぱり、あるあるシティーしかないか......立体駐車場へは建物内部から行けるのか?」

 

「はい、記憶は曖昧ですけどガラス張りの連絡通路が、五、六階から通っているはずです」


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