浩太の脳裏に甦った光景は、中間のショッパーズモールでの一件だった。
まさか、田辺が言っていた偵察機とは、あのアパッチのことだろうか。いや、間違いなくそうだ。生き残るための行動が、いつの間にか、破滅への足掛かりとなっていた事実に、愕然としたのは浩太だけではない。祐介も右の拳を震わせて、そんな理不尽な話しがあるかと、地面を強く殴り付けていた。
「なんで......ここまできて......どうしてこんな......」
祐介が失意の底に落とされたような目眩を覚える中、ふと、浩太が顔をあげた。
「......なあ、田辺さん、そんなことをしたら、世界から非難を浴びるぞ、と止められないか?」
「......難しいでしょうね。なにぶん、アメリカの件に関しては、野田さんが決めたことではなく、戸部総理の独断だったそうです」
浩太は、眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「戸部総理は九州地方感染事件について、あくまで一つの実験と捉えていたようです。今回の事件が終われば、他国からの助成金を受け取る計画になっていたようですが、証拠を残せば都合が悪い......そこで、アメリカへ交換条件を提示したのではないかと考えています」
「交換条件......?」
「......薬品の譲渡です。あちらの情勢は御存じと思いますが、九州地方の現状から察するに、これほど優れたものはありませんし、閉じ込めさえすれば、処理も手早く終わらせることができる。その過程は分かりませんが、こんなところではないかと推察します」
歯茎に血が滲むほど、浩太は奥歯を締めた。
明日の18時までに九州地方を脱出しなければ、大規模な空襲に襲われ、更に時間が過ぎてしまえば、最悪の結果を迎えてしまう。四の五の言っている暇は、もう残されていない。
「田辺さん、もう堅苦しい話しは無しにしよう。簡潔に言ってくれ、俺達はこれからどうすれば良い?」
「そうですね。そうした方が良さそうですし、現在地はどこですか?」
新崎に一瞥くれ、浩太は声を潜めて言った。
「遠賀って地区の盆地にある工場内にいる」
近場の机に地図でも広げているのか、受話口の奥で物音が入ってくる。やがて、小さな唸り声と共に、田辺が言う。
「そこから福岡空港へ向かうことは可能ですか?」
「不可能だ。福岡空港へは、天神や博多、隣接する都市部ならば、どこからでも地下鉄で繋がっている。死者の数は膨大だろうな......正直、こっちには武器も少ない。AK74やM16、イングラム、手榴弾が1発、ベレッタとあるけど、弾丸は合わせて百発もない」
「......では、北九州空港はどうでしょう?」