厳つい外見は、救世主を迎えるように、あまり馴染みのない一般人にも喝采を送らせた。それほどの存在感を持つ巨大な機体が、関門橋の中腹、その海上でホバリングを始める。
浩太は、機体の向きを変えるのかと、しばらく観察してみたが、その様子はない。ローター音だけが、場に響く音になった。二分も経つ頃には、一般人すらも、多数の自衛官が発する不自然な態度に、ざわつき始めた。岩下も焦りからか、次第に落ち着きがなくなっている。
何かがおかしい。浩太に、心臓を捕まれたような嫌な予感が過る。バリバリという爆音の中、アパッチは関門橋へ機体を向けたまま僅かに上昇した。
「……着陸場所を探していたみたいだな」
下澤が安堵の息を吐いたのも束の間、今度は背後で悲鳴が上がる。
四人が振り返った先には、銃声とアパッチのローター音で集まり始めたのか、大量の暴徒が唸りをあげて迫っている。
プロペラが回転する騒々しさにも負けない呻き声と足音だ。数を確かめる必要もない。基地にいなかった岩下は、初めて目の当たりにした暴徒に、完全に意識を奪われていた。白濁とした眼球、破られた腹からは内臓が垂れ下がり、四肢の一部が欠損している。屍蝋を思わせる姿をしている者さえいた。
糜爛した皮膚が、地面を擦る度に、粘りをもった質感を確かに岩下は感じた。
「う……あ……」
声が出せなかった。それほどの衝撃を受けている。一般人の悲鳴が木霊し、我先に壮年の男性が近場にあった車に乗り込んだが、乱雑に放置された車輌に阻まれ、発進が出来ず、瞬きの間に囲まれた。ドアガラスを数十人の暴徒が一斉に強打し始め、耐え切れずに割れると、無数の腕が車内に侵入する。
男性の悲痛な叫びが、響き渡った。
後部座席に入り込んだ三人の暴徒により、肩と頭を引き上げられ、庇えなくなった腹部に容赦なく暴徒の手が突き入れられる。
フロントガラスの半分が、瞬く間に朱色に染まり、男性は見えなくなり、数秒後、放り出されたのは、下半身だけだ。そこに、新たな暴徒が一斉に群がった。
「頭を撃て!奴らは頭さえ撃ち抜けば、動かなくなる!」
「駄目だ!下澤さん!一般人が混乱してる!このままじゃ撃てない!」
浩太が小銃を構えながら言った。下澤は小さく悪態をつき、岩下の胸ぐらを掴みあげた。
「岩下!今すぐここを解放しろ!このままじゃ一般人はおろか、俺達も全滅だ!」
岩下は、反応を返さず、ただ一点だけ、先程男性が乗り込んだ車内での惨状を物語る朱色のフロントガラスを眺めている。
「岩下ぁぁぁぁ!」
なりふりかまっていられなかった下澤は、岩下の頬を渾身の力で殴り抜いた。
バイオリベ2のラスボスの顔が過去最恐な件ww
普通に恐かったwww