「話を続けますが、新崎さんには、選択肢なんかないってことは、もう理解してもらえたと思います。そして、これからどうしたら良いのかも」
言葉を区切られた新崎の姿は、もはや陸にあげられた魚だった。後ろ手で縛られていることが、余計にイメージへ拍車をかける。もう、反論の余地はない。その場しのぎの抗弁は、自身の肩身を狭くしただけだ。
立ち上がった祐介を見上げているだけで、口の振動が全身に広がっていく。
「お前......なんなんだ......?」
「別に驚くことじゃないでしょ、仲間がいれば、狭まった視野を広げてくれる。ただ、それだけです」
淡々と述べていった祐介は、ふいと顔を浩太へ向け微笑んだ。
「祐介......お前......」
「こっから先は、浩太さんに預けます。でしゃばってすいませんでした」
浩太の脇を通り、祐介が地面に腰を下ろそうと屈んだ、まさにその時、携帯電話が激しく振動を始め、肝が潰れるほどの大声をあげた浩太は、思わず、携帯を落としてしまった。
真一と達也、祐介や新崎すらも、瞠目して規則的に揺れる携帯電話と、淡い光を放つ画面を注視している。番号だけしか表示されていないと確認した浩太が、恐る恐る拾い上げると、新崎へ画面を見せた。逡巡しているのか、眉をひそめた新崎に、刺すような冷たい声音で祐介が言った。
「新崎さん、その沈黙に意味はありませんよ」
奥歯を噛み締め、ゆっくりと頷く。
浩太は真一、達也、祐介の順番に首を回していき、一巡すると同時に通話ボタンへ指を伸ばし、強張った表情で携帯を耳に当てた。
「......もしもし?」
受話越しに聞こえてきたのは、壮年の男性の声だった。
「ああ!良かった!繋がった!もしもし、聴こえていますか?ノイズが酷いといった弊害はありますか!?」
耳を着けていても四人が聞き取れるほどの声の大きさに、浩太は反射的に耳から離す。電話相手は、興奮した口調で、いろいろと質問を繰り返している。その危険性に一早く気付いた達也が鋭く言う。
「浩太、早く受話側を抑えろ!死者に勘づかれちまう!」
素早く親指で塞ぎ、浩太は通話口に向かって言った。
「頼むから落ち着いてくれ!こっちはアンタが考えてるほど、甘い状況じゃないんだ!」
その一声で、相手のトーンが下がっていき、深呼吸が聴こえた後に、壮年の男は静かに謝罪を挟んだ。
「......本当にすいません、僕の不注意でした」
「今更だ。で、ひとつ聞きたいことがある。アンタ......一体、誰だ?」
浩太は、尋ねてから息を呑んだ。
男の話し方からして、新崎と繋がっていた男ではないだろう。それは、まず間違いない。だとすれば、新たな疑問が生まれる。はたして、この男は味方なのか。それとも、こちらを油断させようとしているのか。その見極めとして、浩太は新崎を横目で盗み見たが、新崎の面持ちは、訳が分からない、と如実に語っていた。電話の先で、男性が喉を鳴らす。相手もなんらかの警戒をしているのか、と頭の片隅で考えていると、不意に、浩太の耳へ男の声が吸い込まれた。
「......初めまして、僕は東京で記者をしている田辺と申します」