詰まった空気が流れていき、やがて、少年が切っ掛けをつくるかのように言った。
「そうだ。浩太さん、結果はどうでしたか?」
浩太は、ああ、と力なく答えると、ちらと新崎を見る。
「......最悪なことに、俺と真一が話した内容で間違いなさそうだよ、祐介」
上野祐介は、瞠目すると腿の位置で拳を強く握り唇を歪めた。
腹に黒い渦が大きな揺らめきとともに、体内を駆けめぐり始めているのだろう。咄嗟に、浩太が祐介の右腕を捉えて肩を叩けば、次第に落ち着きを取り戻していく。大丈夫です、と小声で返した少年は、改めて新崎を見据えた。
「......初めまして、上野祐介です。新崎......さんで良いんですよね?」
新崎は、瞼を落とすことで肯定の返事とした。
これは、新崎にとっての一つの実験のようなものだ。これでくみ取れるならば、祐介ですらも警戒対象にいれなければならない。しかし、所詮は、あどけなさの残る学生、体格もあり訓練を積んだ三人には、及ばないだろう。そんな皮算用を抱いた直後、新崎は目を剥くことになる。
「分かりました、なら、質問があります。新崎さん、まさかとは思いますが、初歩的なミスを犯していることに気付いていますか?」
眉間が縮む反応を示した新崎へ、祐介は確信を得たのか、すっ、と膝を折ると右手の人差し指を向けた。怪訝そうにする新崎に構わず、祐介が言った。
「まず、一つ、さっき聴こえた怒鳴り声からして、新崎さんはなんらかの交渉を、浩太さんに持ち掛けている」
祐介は僅かに振り返り、浩太が首肯したのを視認すると、続けて中指を立てた。
「二つ目、その交渉の手段となっているのは、恐らくは携帯です。けれど、新崎さんは、携帯《電話》だということを忘れていませんか?」
まるで、新崎の危惧をそのまま読み取ったかにも思える指摘の鋭さに、頭に大きな鈍器を強くぶつけられた感触を味わった。表情を変えず、祐介は目を細めた。それだけでなく、加えられた一言にも、ほんの一二分前の自分の首を絞めたくなるほどの忸怩たる気持ちを覚えることになる。
「そこは気付いてたか。まあ、あの地獄を生き延びたんなら当然か......」
独り言を呟いた祐介の背中に、真一が声を掛けた。
「当然?そりゃどういう意味だ?」
今度は振り返らずに、祐介は返す。
「今の九州は、死神が隣に居座っているみたいなもの......俺達は何度も地獄と向き合ってきました。そんな中で生き延びてきたからには、それなりの理由があると思います。親父の受け売りですが、それは、自分を見失わずに、常に冷静に物事を判してきたかどうかってこと。助け合える仲間がいなければ、尚更ですよ」
命を危ぶむ限り、見えなければいけないものが、なにも見えなくなる。必要なものか、必要ではないか。これは至って当たり前なことなのだが、祐介以外は失念していたのだろう。希望を前にすれば、誰でも冷静でいられない。