感染   作:saijya

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第5話

 新崎に危害を加えようとした真一は、古賀達也により背中から羽交い締めにされ勢いを失った。それでもなお、真一は達也の拘束を逃れようと身を捩っている。

 

「放せ、達也!コイツは......!コイツを二、三発ぶん殴らないと、俺の気が収まらないぜ!」

 

「落ち着け真一!さっき全員で話し合っただろうが!新崎の携帯で助けを呼べるか確認するってよ!」

 

「けど、コイツは......!」

 

「分かってる!俺達だって同じ気持ちだ!けど、ここは堪えろ!」

 

 両肩を大きく震わせていた真一だが、達也の声に、徐々に落ち着きを取り戻していく。しかし、やはり、鼻息だけは荒く、目付きも鋭いままだった。真一を離さずに、達也は目配せで浩太を見やり、静かに首を振られたことに対して、明らかな落胆を顔に表すと、一拍置いて新崎を睥睨する。

 

「新崎、テメエは、どこまで卑怯者に成り下がるつもりだ?このままじゃ、ただの屑になっちまうぞ」

 

 横たわった状態で、新崎は短く笑った。

 

「なんだ?ショパーズモールで会った時とは、随分な温度差だ。あの時のお前は、がむしゃらに俺を殺そうとする気迫があったんだがな」

 

「......見くびんなよ?テメエが大地を囮にして暴徒から逃げた光景を全て覚えてんだ。俺は、浩太や真一よりも、テメエを殺してやりてえと考えてんだよ。だが、それは今じゃねえ、それだけの理由で生きてるっこと、忘れんじゃねえぞ」

 

「......なら、その狂犬の首輪にでもなってやるんだな。今にも俺に噛み付いてきそうだ」

 

 新崎の一言一句にさえ、真一が過剰に反応していることが、抑えている達也にも伝わっている。それだけに、新崎は真一から視線を外さずに警戒しつつ、浩太の右手へ神経を預けていた。

 命綱ともいえる携帯電話を奪わなければ、新崎の命はないだろう。しかし、そこで一つの懸念がある。三人の会話から察するに、あれから一度も野田は新崎に連絡を寄越していないのだろう。そして、この状態だと新崎よりも先に、浩太が通話に出てしまうことになる。

 そうなれば、任務の失敗が露見し、間違いなく野田から見限られてしまう。そんな事態は、なんとしても免れなければならない。その為には、この場の主導権を握る必要がある。新崎が、ぐっ、と眉間を狭め、改めて口火を切ろうとすると、同時に再び、扉が開いた。入ってきたのは、高校生ほどの少年だ。

 

「真一さんの声が聞こえたんだけど......大丈夫?」

 

 上野祐介は、そう言って新崎へ目を移した。

 

「......ああ、悪かったな。ちょっとゴタゴタしてしまった。安心してくれ祐介」

 

 浩太の返答に、祐介は何かを察したのか、ほんの少しだけ間を空けて頷いた。続けて、達也が尋ねる。

 

「阿里沙ちゃんと加奈子ちゃんは?」

 

「二人とも二階で寝てます。今日は、本当にいろいろありすぎましたから......」

 

 四人は揃って沈痛な面持ちで俯いた。




浜岡「うーーん、困ったねえ......」

田辺「どうしたんですか?」

浜岡「最近、虫歯が酷く染みてねえ」

田辺「虫歯......ですか?どこに?」

浜岡「左の奥歯にあるんだよ」

田辺「口に空けて下さい。あーー、あります......えっと......あの浜岡さん......これいつからあります?」

浜岡「ん?奥歯だから、生まれてからだけど」

田辺「完全に親しらずですよこれ!え?もしかして、これをずっと奥歯と思って生活を?」

浜岡「え?うん。......え?これ奥歯じゃないのかい!?」

田辺「当然でしょうが!そんなとこに歯があったら頬の内を傷つけますよ!」

浜岡「え?じゃあ、この反対にあるのは......」

田辺「親しらずです」

浜岡「上下左右にもあるんだけど」

田辺「どんだけあるんですか!?」

浜岡「しかも、歯科医が、左奥が虫歯になってます。引き抜きますか?って」

田辺「なんでRPGの選択肢みたいな......」

浜岡「引き抜く時も、固かったのか僕の額に手をつけて......」

田辺「踏ん張らなきゃ駄目って......」

浜岡「やがて、ミチミチ、ギチュって聴こえて」

田辺「うわぁ、ちょっとやめてくださいよ」

浜岡「そして最後に、ふん!って......」

田辺「どんだけ力んでんですか!?」

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