感染   作:saijya

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第10話

 まるで、勲章のように銃を掲げると、後ろの空気が大きく揺れた。人を支配する上で、もっもと効果的な行為は恐怖を持たせる事、そう言われる由縁が分かった気がした。

 このような事態を慣れ親しんだ風景の中で理解したことに、浩太は悲しくなった。自らを取り巻いていた環境が一夜、たった一夜で一変してしまった証左のように感じる。握った拳に血が滲み、噛んだ歯が音をたてる。

 岩下は、弱い人間だ。力で捩じ伏せ、自分に従う様を眺め良い気になっている。他人を掌握したという思い込みからだろう。結果、階級や立ち振舞いも同じ立場にある下澤を快く思えず、苛立っている。こうなった人間は、プライドを傷付けられることをひどく嫌う傾向が強い。

 下澤は、そこを上手く突いていく作戦に切り替えたようだ。両手を肩の位置まで上げて言った。

 

「その判断力は流石だな。俺には真似出来ないよ」

 

「だろうな。指揮を委任されながらも基地を壊滅させたのは、どうせ判断が遅れたからだろ」

 

 昂然と胸を張る岩下の横顔を殴りたくなると、真一すらが奥歯を締めた。だが、達也も動こうすらしていない。

 暴徒が近付きつつある以上、あまり時間を掛けることが出来ない。いち早く状況の変化に対応する為に、ここは、下澤に任せ、三人は周囲の警戒を行う。

 

「ああ、俺の判断が遅れたのは事実だ。だがな、ここの封鎖だけは止めてくれないか?」

 

 岩下が不服そうに眉をひそめる。

 

「何故だ?」

 

「俺はお前以上に現状を知っている。もう、小倉は壊滅に近い。奴らが押し寄せてくるのも時間の問題だ」

 

「なら、安心しろ。もうじき救援がくる」

 

 岩下の言葉に、四人は瞠目した。それと同時に、更に怒りが込み上げてきた。

一般人がそれを知っていたら、少なくとも射殺までするような事態は避けられたかもしれない。つまり、岩下は支配者側になりたいが為に、市民に銃を向けていたのだ。証拠に、後ろにいる多数の市民からはどよめきが起きている。それが大きな声の波となり、自衛官達を叩こうとした時だった。

 玄海灘の水平線を越えて、黒い塊がけたたましい音をたてながら、関門橋へ接近してくる。その場にいる全員が、一斉に空を見上げた。

一般人や自衛官達にも覚えのあるローター音、それは徐々に輪郭を現していく。迷彩塗りの機体、両翼には丸い大きな筒、コクピットの真下には30ミリの弾丸を撃ち出すチェインガンが装備され、ミサイル(ヘルファイア)すらも撃ち出す。アパッチと呼ばれる攻撃ヘリだ。

 

「あれか?隊長が言ってた救援ってのは……」

 

「ああ、そうだろうな。こいつは凄えな。流石、隊長だ」

 

 アパッチは、はっきりとその姿を現した。




少し感染の更新早めます
もう少しで、章が変わるからって訳じゃないんだからね!w

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