もんどりを打ち、前のめりに倒れれば、シーソーのように東が立ち上がり、自身の胸と腹に一瞥くれ舌を打った。一度だけ、撃たれた箇所に掌を当てれば、べったりと紅く染まっている。
「......やっぱ、痛みはあるな。あーーあ、これで痛覚も無くなってれば、文句なしだったんだがなあ……神様ってやつもずいぶんを皮肉なもんだな」
何事も無かったかのように、コキコキ、と首を鳴らし、二人組を視認すれば、その様は、さながら、蛇に睨まれた蛙だ。腰が抜けた態勢で後ずさる男を尻目に、東は脂汗を滝のように流しながら、自分の足首を凝視していた男に言った。
「よお、一つ尋ねたいんだけどよ。テメエは、神ってやつの存在を望むか?」
不意に投げ掛けられた問い掛けに、男の視線が泳ぎ出す。答えを探っているのか、単純に東への憂懼を募らせているのか、どちらとも判断がつかない。ただ、分かっているのは、答えを間違えてしまえば、この小柄な男により、命を奪われてしまうということだけだ。
男は必死で思索を巡らせ、生唾を呑み込み口を開いた。
「か......神が、もしも本当にいるのなら......俺は信仰しない......こんな世界に落とした奴なんざ、信仰してたまるか......!」
きつく咎めるように、目尻を釣り上げた。無くなった指を庇いながらではあるものの、男の眼力は色あせることなく東を捉えている。しかし、その返答に対して、東は冷笑を浮かべた。
「おいおい、馬鹿かお前はよ?意味を履き違えてんじゃねえよ。俺は望むかと訊いたんだ、信仰するかどうか、なんざ聞いちゃいねえよ」
「......えっ?」
その頓狂な声が男が発した最後の一声となった。
東の振りかざした右拳は、吸い込まれるように男の顔面に振り下ろされる。アスファルトとの板挟みにあった頭部は、鼻を中心として、拳が埋まるほどに巨大な窪みを作られた。その光景を目の当たりにした、もう一方男の股に、大きな染みが出来ていく。
「ひっ......ひい!ひあああああああ!」
東が、ビクビク、と痙攣している身体を眺めて数秒後に、拳を引き抜けば、拳頭にゼリー状の物が付着していた。光悦の表情で舌で舐めとると、東は哄笑した。愉快で堪らなかった。少し前の東ならば、こんなことは口にしなかっただろう。だが、今となっては容易に質問できる。これも、安部さんが俺の中で生きている証といえるのかもな、と唇を歪めた東は、残った男へ双眸を預けた。