感染   作:saijya

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第10話

               ※※※ ※※※

 

 とある殺人者は、自身はサイコパスであると認めた。

 サイコパスとは精神病質という反社会的人格を持った人間のことだ。サイコパスは時折、異常犯罪者と結び付けられることがあるが、心理学や精神病理学の分野では社会に適合し、ある程度の成功を収めたサイコパスの存在がある。

 あるビジネスマンは人間関係を円滑に進めたり、危険を顧みずに仕事を進めたり、仕事で成功を収める上で必要不可欠な能力を備えていた。だが、ビジネスマンの裏の顔は異常なまでに不倫を繰り返し、極度の酒好きというものだった。しかし、サイコパスが必ずしも犯罪的でありながら、排他されるべき存在である、と結論づけるには些か、早計ではないか。

 1977年、成功したサイコパスに対して、ある研究が発表された。ハーバード大学教授だった男は、心理学を専攻する中で、避けては通れないとし、成功した実例を支点として、注目を集めた。手始めに、日本で言う新聞の文通コーナーを介して、サイコパスの特徴を満たした人々に接触を試み、さまざまな調査を敢行する。調査の結果、新聞で出会った人たちの約65%はサイコパスの基準を満たしたことが判明した。

 そして、サイコパスと断定した人の中に犯罪歴を持つ人は皆無で、驚くことに、銀行員や証券会社員といった社会的地位を確立している人もおり、調査結果から、恐れ知らずといったサイコパスの特徴を英雄や偉人的な行動と結び付ける仮説をたてる研究者が現われ始め、ある学者は偉人とサイコパスが同じような遺伝子をもつ可能性があるという仮説をたてた。

 安部はどちらだろう、と東は考える。恐らくは、九州地方がこのような惨状に見舞われなければ、偉人になりえた男だ。そもそも、革命的な思想というものは、人間の育ち方と関係がある。何をして、何を見て、何を感じてきたかに尽きるから、覆そうと渦中へ身をおく。

 けれど、そういった物事には、常に危険が付きまとい、皆がそれを怖れてしまう。そう、サイコパスでなければだ。決定的に、安部は恐怖に耐える気持ちが足りていなかった。楽しむ、くらいの気概がなければ、革命は起こせない。その点、東自身はどうだろう。中間のショッパーズ・モールを後にした東は、通谷の電停を越えて、宛もなく歩いていた。肩から提げたリュックサックを揺らし、右手にあったマンションを仰ぎ、一階の駐車場へ目線を下ろし首を傾けた。真新しい車が一台だけ停まっている。どうにも、疑問を抱き、近づいてみれば、シートやハンドルも新品同様だ。それも、磨かれた跡も確認できる。つまり、この車の持ち主は、どこかに潜伏しているということだろう。




※←使うの最近忘れてました……

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