下澤の怒声に、岩下は嘲笑うように口角を上げる。銃口を突き付けられていた男性は、今にも泣き出してしまいそうだ。
恐怖により、両足の震えはピークに達していたのか、ぺたん、とその場に座り込んだ。
浩太の予想は最悪の形で当たってしまった。まさか、封鎖していたのが、暴徒ではなく、人間、それも仲間だとは思わなかった。背後にいる住民達からしてみれば、武装した自衛官が増えた事により、目の前にある関門橋が、箒木のように見えているのかもしれない。市民を守る為にある存在が、暴徒が迫る現状の中、あろうことか市民を射殺し、悦に入った表情で銃を構えている。
その事実に苦しくなった浩太は、胸の痛みを消すような勢いで岩下に掴み掛かった。
「い、わ、し、たあああああああ!」
怒りで途切れる声に被ったのは、銃声だった。踏み出した路面に真新しい銃創が作られ、浩太は足を止めた。
胸ぐらを掴まれる寸前だった岩下が、ニヤリと笑う。
「おいおい、岡島……状況を見てみろよ?こっちが何人いると思ってんだ?」
呆れたような口調に、浩太が顔をあげた瞬間、こめかみに衝撃を受け倒れこんだ。重く響く鈍痛を携えた浩太の前にあるのは、89式小銃の銃底だ。
殴られたと理解するより早く、達也が浩太の両脇を抱いて下がらせた。鼻を鳴らす岩下から庇うように立ちはだかったのは、下澤だ。
「……どういう事か説明してもらえるか?」
岩下の目付きが鋭くなる。
「どういうつもりだと?それは、こっちのセリフだよ。お前らの任務はなんだ?」
「質問を質問で返すなよ」
下澤の返しに腹をたてた岩下が、目くじらを立てて叫ぶ。
「お前らが基地を壊滅させるなんて情けない事態を起こした尻拭いをしてやってんだろうが!」
「それが、どうして一般人を通行止めにしたり、射殺に繋がるんだ?」
激昂する岩下とは反対に、下澤は機械的に淡々と返す。
納得出来るはずもない浩太が、非難じみた双眸を向けるが、下澤が僅かに身震いしているのを見て唇を結んだ。
下澤自身、岩下の行動に耐え難い怒りを覚えていた。
それを表に出せば、銃を使用した争いに発展する。そうなれば、被害が及ぶのは自分達だけではない。だからこそ、事務的な物言いで、出来る限り感情を殺している。
「これが俺達の任務だからだよ。一時間ほどまえに隊長から連絡があった。ここをなんとしても死守しろ、誰もだすな、銃の許可もあるってな。だったら、押し寄せてきやがった奴らを黙らせるには、これが一番手っ取り早いだろうが」
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