原因がはっきりとした今、この悲劇を作り上げたのは、かつての親友である野田だ。
こうならないよう、止めることが出来なかった。平和な日本に、さながら戦場のような銃撃を響かせる前に、どうにか出来なかった自身を責めてしまい、ついには膝から崩れ落ち、両手が地面に落ちた。
ポタポタと両目から流れ出した染みが広がっていき、田辺は握った右手で地面を殴打する。
「くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!ちくしょう!このバカ野郎!」
「田辺君!」
「どうしてだ!どうしてこうなってしまったんだ!何故、止められなかった!何故だ!くそお!」
肩に置かれた浜岡の手を切り、皮膚が破れ、拳頭から流血するも、お構いなしに田辺はアスファルトを殴り続けた。
鳴り止まない銃声は硝煙を燻らせ命を終わらせていく。人に訪れた僅か一度の人生、望まぬして受け取った二度目の生、それを終わらせない為に、田辺は事件を追求した。その結果が、これでは救われない。耳を塞ぎたくなる銃声が止み、右手に走った鋭痛を切っ掛けに、田辺は殴るのを止め、そのまま頭を垂れて額をぶつけた。
腹の底から吹き上がる苦しみを放出する方法が分からない。どれだけ叫んでも、晴れる気がしない。蚊の鳴くような細い声で嗚咽混じりに突っ伏した。
「ぐっ......くそ......くそぉ......」
小さなひとつの犯罪でたくさんの命が救えるなら、それは正義ではなかろうか。
罪と罰の一節が浮かび、田辺は伏せていた顔をあげた。
そうか、そういうことか。罪は消えないが、罰は姿を変える。この結果が僕の罪ならば、これは野田の罰と言える。だが、野田にとっての最大の罰とはなんだっただろうか。決まっている、東を殺せずして、自身が死んでしまうことだ。
しかし、罰はいつでも、最悪へ変わっていくものなのだろう。現状、野田は生きている。
田辺は、すべての歯に、有らん限りの力を行き渡らせて立ち上がると、消魂しきった野田へと詰め寄り、胸ぐらを掴みあげ、血塗れの拳で頬を撃ち抜いた。
「田辺!なにを......!」
傍にいた斎藤が、背後から田辺を羽交い締めにして言葉を失った。田辺が、これまで見たことがないほどの鬼のような剣幕で、野田を睨目つけていたからだ。
ふうふう、と激しく肩を上下させながら田辺が言った。
「野田さん、分かりましたか。貴方がどれだけ現実から目を背こうと、現実はいつだって、自分の背後に迫っているんです。その結果がこれだ!」
野田は、大の字で横たわったまま、空を見上げている。その瞳に写っているものは、他の者には判断出来ないが、田辺には、まるで天に唾を吐いているように思えた。
「あと、何人巻き込めば、気が済みむんだ......人は......命は......貴方の復讐の為の道具ではない!」
田辺……