このままでは、カールグフタフを発射したとしても、死者の壁に阻まれてしまうだろう。たった一発の希望を無駄にする訳にはいかない。
「こりゃ、かなり厳しいな......どうするよ浩太」
声をひそめて、達也が尋ねる。
「......なあ、屋上から狙うのはありと思うか?」
「屋上?鍵もねえのに、どうやっていくんだ?」
「もちろん、こいつでだ」
浩太は、とん、と軽く銃身を叩いて言った。呆れたように、吐息を短くついた達也が返す。
「そんなもん、奴等に気付かれちまうだろうが......そうなると、アパッチを撃墜させるどころの話しじゃなくなっちまう」
「だからこそだ。だからこそ、都合が良いんだろ」
言葉の趣旨が、どうにもはっきりとしない。得心の行かない達也は、再びアパッチと死者の大群を一瞥する。
「なあ、浩太、どういう意味で言ってんのか、教えてくれよ。このままじゃ堂々巡りみたいなもんじゃねえか」
「なら、端的に言うぞ?お前は屋上に走って扉をぶち壊せ!」
次の瞬間、浩太は身を乗りだし、銃撃を開始した。この馬鹿が、などと悪態をつく暇もなく、達也は言われた通りに屋上へと駆ける。浩太は、扉を壊せと言った。ならば、達也も応えるまでだ。屋上への扉の錠を弾丸で破壊する。同時に踊り場から浩太が声を張り上げた。
「そのまま出て、給水タンクに登れ!」
そこでようやく達也にも理解が及んだ。通常、巨大な施設には、施設内を巡るポンプが存在する。加えて、定期的な内面掃除の為に、梯子が確実に備わっているものだ。達也が、タンクを取り囲む柵を一気に飛び越えると、アパッチが急速な上昇をしようとプロペラの回転数を上げ始めたのか、金切音が激しくなる。
ここだ。ここしかない!
梯子を昇りきるや、浩太に手を貸すことなく、カール・グフタフを肩に添え、プロペラ音と位置だけを頼りに狙いを定めた。
絶対に外せない一撃、達也も今だけは外界から切り離された。雑音も伸吟も浩太の声でさえも遮断して、たった一瞬に全てを懸ける。黒い塊が屋上の枠外から垣間見えた時、梯子を昇りながら浩太が叫んだ。
「今だあああああ!」
達也もまた、震える指先で引き金に指を掛けた。外す訳にはいかない。これは、命をとした覚悟の一発、そして、希望への架け橋だ。
すう、と深く吸い込んだ空気が肺に満たされると、達也は声を振り上げた。
「堕ちろおぉぉぉ!」
九州地方へ絶望を振り撒く切っ掛けともいえる八十四ミリの巨大な弾丸は、希望の弾丸へと変貌を遂げ、強烈な後方爆風と、七人の様々な思いと共に撃ちだされた。
ミスってました……失礼しました!