感染   作:saijya

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第14話

旅客機の墜落から、僅か三日しか経過していないにも関わらず、真一は親でもなくしたような喪失感に苛まれている。この状態はよくない。これから死地へと走らなければならないのだ。こんなことでは咄嗟の対応ができなくなると、頬を叩いてナイフを構え息を深く吸って吐き出す。

 

「行こうぜ、祐介......奴等が来そうになったら教えてくれよ」

 

 首を縦に動かし、祐介は慎重に戦車から降りた。静謐とは言いがたいが、エントランスホールには、死者は残っていない。それでも、音をたてないよう口を両手で抑えたまま、車上に残る真一へ目で合図を送る。二人は、ジリジリとした足取りを保ち、砲撃により崩壊したショパーズモール中央吹き抜けの出入り口に進んでいく。バリケードが張ってあったのか、机や割れた板など散乱していた。踏んでしまっては音が鳴ってしまうことを危惧し、初めて自分の足で歩き始める赤子の如く、踏み場を選び、神経を尖らせたまま、残った柱に張り付いて、外広場を覗いた。中間のマクドナルドから、中央吹き抜けホールまでは、目算でもかなり離れてはいるものの、それでも死者の重なりあった肉体と声は、かなりの圧力を二人に与えた。

 舌打ち混じりに、真一はナイフを握り直し、汗を拭った。

 

「一気に駆け抜けたほうがよさそうだぜ......どう思う?祐介」

 

 その提案に、祐介は首を振った。

 

「いえ、それは危険すぎます。反対の入り口までは、距離も少しありますし、あちらも壊されてます」

 

「だとしても、他に何かあるか?」

 

 真一の額から、汗が垂れ始める。それもそうだろう。この作戦は、浩太達と同時に進行し、同時に達成しなければならない。アパッチをカールグフタフで墜落させたのちに、車で二人を回収し、脱出する流れだからだ。焦燥感から、語尾も強くなっている真一をよそに、祐介は父親の言葉を思い出していた。

 

 良いか?こんな時こそ冷静になれ。そして最も危ない橋を渡らずに済む道を探すんだ。

 

 頭の中が透けているのではないかと感じるほど、祐介は冷静に状況へ目を向けている。そこで、ある一点に思考を預けることができた。

 

「......もしかして、あちらからなら……」

 

 その呟きに、真一が視線をあげて、どうした、と尋ねるも、祐介は死者の大群がいる場所から真反対へと振り向く。この吹き抜けは、真上からみたら十字に抜けている。マクドナルドを基準にして考えた場合、祐介が注目している方角はショパーズモールの裏手になる。


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