「何はともあれ、お前らだけでも無事で良かった。もう、俺達しか脱出出来てなかったと思っていたからな」
肩に小銃を下げ、真一が下澤へ手を差し出した。互いに強く握手を交わし、真一が切り出す。
「二人はどこに向かってたんすか?」
「ああ、関門橋だよ。もしかしたら、隊長もいるかもしれないだろ?」
「そう言えば、隊長とは会ってないんですか?」
浩太の疑問に、下澤は首を縦に動かした。
「どこにいるか分からないからな。だから、関門橋で会えるかもしれない、なんて期待をしてたんだ」
「そういうことなら、俺達と来ませんか?目的地も同じみたいだし」
「有難いな。正直、ガソリンや弾丸も不安があったんだ。弾丸の余裕はあるか?」
浩太が、トラックの荷台を一瞥する。充分とは言えないが、分けるくらいなら問題はないだろう。
積み込んだ武器の中には、手榴弾や単発式の拳銃もある。
カーキ色の布を捲り、中から銃弾が込められたマガジンを三つずつ、手榴弾を一つずつ二人に渡し、浩太が運転するトラックへ乗り込む直前、達也が離れた位置から不安定な足取りで走ってくる暴徒を指差す。
「もう、ここまで来てるな。急ごう」
達也がドアを閉めた事を確認し、浩太がアクセルを踏んだ。関門橋までは、あと僅かだが、走り出して、数分、最初に異変に気付いたのは浩太だった。前方に見えるのは、数多の車が乱雑に犇めき合い、渋滞のような列を作っている光景だ。
「……集団パニックか?」
真一が助手席で呟いた言葉を、浩太はすぐに否定する。その可能性はない、とは言い切れないが、車同士の接触が少なく、仮に集団パニックだとしたら、これほど車が原型を留めているのは、逆に不気味だ。
「一度、降りてみよう。何かあったのかもしれない」
達也の提案に、浩太が頷いて小銃を持った。
「下澤さんと真一は念のために待機していてくれ」
二人を残し、達也が先頭を歩きだす。夏が近付きつつある時期に、肌寒さを感じるのは、気のせいではないだろう。二人は、銃口を先に立て、一台目の軽自動車の運転席を覗く。
誰も乗っていない。もぬけの殻だ。
「……どう思う?」
油断なく銃を構える達也が浩太へ訊いた。
「分からない。奴らに襲われたなら、シートに血でも点いてそうなもんだがな。だが、内装が綺麗すぎる」
「乗り捨てたってのは?」
「あり得ないだろ」
きっぱりと言った浩太は、次の車へ顔を動かした。やはり、誰もいない。だが、こちらは鍵が差しっ放しになっている。
浩太は、更に首を捻る結果となった。
これでは、先程、達也が言ったように乗り捨ててしまっているみたいだ。
しかし、暴徒が追い付けない上に、ある程度の人数に囲まれても、場合によっては身を守れる。それほどの利便性がある車を置いていくとは思えなかった。浩太は、膨れ上がる不審と緊張によって、焼き付くような熱さをもち出した喉へ唾を滑らせた。