感染   作:saijya

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第8話

 ぐっ、と唇を噛んだ達也に対して、なにかを言えるはずもなく、浩太は俯いた。こんな現状では、いつでもどこでも辛い現実を突き付けられる。沈痛な面持ちの三人へ、話題を変えるように、阿里沙は脇に置いていたバックを指差す。

 

「そう言えば、これを車上で見付けたんですけど......」

 

「それは......?」

 

 視線をあげた浩太に、阿里沙はよろめきながらバックを渡す。不可解そうにジッパーに指をつけ、一気に開き、浩太は目を丸くして、細い声を出した。

 

「これは......ハチヨンか?これをここで......?」

 

 自衛官二人も顔をあげ、真一はマジマジとバックの中身を見詰める。達也は顎に指を当てて、なにかを考えているようだ。

 

「はい、多分、この戦車に乗っていた人のだと思います。ちょうど入り口の辺りに、そのまま置かれてて」

 

 阿里沙が続けてハッチを見上げて言った。

 ここにいた人物、今、現在、判明しているのは只一人だ。つまり、このカールグフタフに隠された事実は、ある結論に達することになる。それを感じ取った途端、自衛官三人は、長年、探し求めた敵を見付けたような、とてつもない嫌悪感を覚えた。

 こいつだ。このカールグフタフが、皿倉山の手前で高度を、ぐっ、と落とした旅客機の墜落を招いたものの正体だ。忌々しそうに、バックを持ち上げた真一を慌てて浩太が止めた。

 

「......放せよ、達也」

 

「落ち着けよ。気持ちは分かるが、今は一つでも武器になるものがいる。違うか?」

 

「けど......こいつは......こいつのせいで......!」

 

「ああ、辛いだろうな。俺だってそうだよ、真一......けどな、考えてもみろよ。俺達には、ここを生きて脱出する義務がある。その為には、なにが必要だ?」

 

 その言葉に引っ掛かったのか、祐介が口元で、ポツリと言った。

 

「......アパッチ?」

 

その言葉に、真一と達也が同時に、はっ、とした表情をするが、浩太だけはニヤリ笑みを洩らしていた。

そう、例え、中間のショッパーズモールを脱出したとしても、最大の問題が残っていた。しかし、六人は、それを打開する手段を手にしたのだ。

だが、やはり真一は難色を示しているようだ。ぼやくように、悪態をつく。

 

「とんでもない皮肉だぜ......この九州をこんな惨劇に変えた武器に、脱出の為とはいえ、頼らざるえないなんてよ......本当、クソッタレだぜ......」

 

「けどな......」

 

 浩太の反駁を右手で制したのは、他ならぬ真一本人だ。

 

「もう、分かってる......充分に理解してるし、納得してるぜ......この憤りは新崎にぶつけてやるよ」

 

 生きてたらな、と吐き捨てた真一がバックを下ろし、浩太が切り出した。

 

「祐介、阿里沙ちゃん、加奈子ちゃん、詳しい話はあとで全て話す。だから、協力してくれ」

 

 聞きたいことは山のようにある。けれど、祐介と阿里沙は、一先ず、言葉を呑み込んで頷く。先だって必要なことは、どう戦車を狙う死者の大群を抜けるかだが、不意に真一の袖を引っ張った加奈子が、外を指差すと、死者の数が数えるほどになっていた。

恐らく、アパッチの銃撃により、そちらへ引き寄せられたのだろう。

 達也がガッツポーズを決めて言った。

 

「ようやく、俺達にツキが回ってきたみてえだな」

 

「そういうのは、上手くいってから言ってくれよ。さて、みんな集まって意見を聞かせてくれ」

 

 浩太の声が響き、車内の六人が鳩首した。


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