ぐっ、と唇を噛んだ達也に対して、なにかを言えるはずもなく、浩太は俯いた。こんな現状では、いつでもどこでも辛い現実を突き付けられる。沈痛な面持ちの三人へ、話題を変えるように、阿里沙は脇に置いていたバックを指差す。
「そう言えば、これを車上で見付けたんですけど......」
「それは......?」
視線をあげた浩太に、阿里沙はよろめきながらバックを渡す。不可解そうにジッパーに指をつけ、一気に開き、浩太は目を丸くして、細い声を出した。
「これは......ハチヨンか?これをここで......?」
自衛官二人も顔をあげ、真一はマジマジとバックの中身を見詰める。達也は顎に指を当てて、なにかを考えているようだ。
「はい、多分、この戦車に乗っていた人のだと思います。ちょうど入り口の辺りに、そのまま置かれてて」
阿里沙が続けてハッチを見上げて言った。
ここにいた人物、今、現在、判明しているのは只一人だ。つまり、このカールグフタフに隠された事実は、ある結論に達することになる。それを感じ取った途端、自衛官三人は、長年、探し求めた敵を見付けたような、とてつもない嫌悪感を覚えた。
こいつだ。このカールグフタフが、皿倉山の手前で高度を、ぐっ、と落とした旅客機の墜落を招いたものの正体だ。忌々しそうに、バックを持ち上げた真一を慌てて浩太が止めた。
「......放せよ、達也」
「落ち着けよ。気持ちは分かるが、今は一つでも武器になるものがいる。違うか?」
「けど......こいつは......こいつのせいで......!」
「ああ、辛いだろうな。俺だってそうだよ、真一......けどな、考えてもみろよ。俺達には、ここを生きて脱出する義務がある。その為には、なにが必要だ?」
その言葉に引っ掛かったのか、祐介が口元で、ポツリと言った。
「......アパッチ?」
その言葉に、真一と達也が同時に、はっ、とした表情をするが、浩太だけはニヤリ笑みを洩らしていた。
そう、例え、中間のショッパーズモールを脱出したとしても、最大の問題が残っていた。しかし、六人は、それを打開する手段を手にしたのだ。
だが、やはり真一は難色を示しているようだ。ぼやくように、悪態をつく。
「とんでもない皮肉だぜ......この九州をこんな惨劇に変えた武器に、脱出の為とはいえ、頼らざるえないなんてよ......本当、クソッタレだぜ......」
「けどな......」
浩太の反駁を右手で制したのは、他ならぬ真一本人だ。
「もう、分かってる......充分に理解してるし、納得してるぜ......この憤りは新崎にぶつけてやるよ」
生きてたらな、と吐き捨てた真一がバックを下ろし、浩太が切り出した。
「祐介、阿里沙ちゃん、加奈子ちゃん、詳しい話はあとで全て話す。だから、協力してくれ」
聞きたいことは山のようにある。けれど、祐介と阿里沙は、一先ず、言葉を呑み込んで頷く。先だって必要なことは、どう戦車を狙う死者の大群を抜けるかだが、不意に真一の袖を引っ張った加奈子が、外を指差すと、死者の数が数えるほどになっていた。
恐らく、アパッチの銃撃により、そちらへ引き寄せられたのだろう。
達也がガッツポーズを決めて言った。
「ようやく、俺達にツキが回ってきたみてえだな」
「そういうのは、上手くいってから言ってくれよ。さて、みんな集まって意見を聞かせてくれ」
浩太の声が響き、車内の六人が鳩首した。