温もりの正体、それは熱い涙を流す祐介の掌だった。
共に流される脆い流木などではなく、しっかりと地面に根を張った、太くて大きな大木を連想させる両手だ。達也の全身が弛緩する。両の瞳から落ちる確かな熱が、達也の足元を崩していく。立ってなどいられなかった。
「その......彰一君は......俺を助ける......為に......ここへ......?」
全員の視線が、一斉に達也へ向けられる。
聞くべきではなかった。だが、いずれは、聞かなければならなかった。それは、衝動に突き動かされたなどと、安直な理由ではない。その問い掛けに答えようとした真一を横目で抑え、達也は祐介を仰いだ。俊巡の後に、祐介は浩太へ確認をとるように振り返った。
きっと、達也は祐介から答えを聞きたいのだろう。最後の時まで、坂元彰一と共に歩んだ少年である上野祐介からだ。浩太は、それこそが、達也なりの心配りなのだろうと考え、小さく首肯した。心苦しい選択ではあったが、先のことを視野に入れた場合、達也へ向けられる僅かな不和すら生みたくはない。細く、それでいて長く呼吸を置いた祐介は、達也に短く言った。
「はい、その通りです......」
「......そうか」
細い声で返した達也は、ゆっくりと立ち上がり、一度だけ全員を見回した。泣いている阿里沙と加奈子、憔悴しているようにすらみえる真一、そして、浩太、それぞれがそれぞれに、彰一と呼ばれる男に思いがあることが、一見して良く分かる。それほど、厚い絆で結ばれていたのだろう。
「俺は、取り返しのつかない大切な人を奪っちまったんだな......ケジメはいずれつけさせてもらうよ......」
それが、達也にとって精一杯の言葉だった。胸の内にいる小金井との約束を果たすまでは、どうなる訳にもいかない。逆を返せば、その後はどうなっても良い。そこまで、決意を固めての発言だった。しかし、そんな達也に対して、祐介は首を振った。
「ケジメなんか、必要ありませんよ。彰一は、俺に全てを預けてくれた......今、俺の心には......いいや、ここにいる浩太さんや真一さん、阿里沙に加奈子、そして俺の心には、絶対に誰かがいます。古賀さんもそうですよね?」
達也が小さく頷くと、そう思いましたと、祐介は満足そうに微笑んだ。
「俺達の心に、彰一はいる。それだけで良い......けれど、一つだけ古賀さんに頼みがあります......」
「......なんだ?」
「坂元彰一って男がいたってことを、絶対に忘れないで下さい......」
達也は、忘れられるはずもないとは口に出さず、さきほどよりも深く、首を縦に動かした。祐介も、それに応えるよう、しっかりと頷く。芯のある強い少年という印象が強く残る瞳を保ったまま、祐介は右手を差し出した。
「上野祐介です。これから、よろしくお願いします、古賀さん」
「......達也で良いよ。古賀達也......よろしくな」
互いに手を握りあうと、達也は残る二人を目で示す。
意図を汲み取った祐介が、阿里沙と加奈子の紹介をする中で、唯一、阿里沙だけが、愁眉を帯びた眼差しで達也を見ていたが、それには誰も気付かなかった。いや、心境も合わさり、誰も気づけなかったというほうが正しいのかもしれない。