嫌味な微笑を張り付けて、戸部は言った。斎藤にしか見えてはいないが、田辺にはどんな顔で、その言葉を口にしているのかが、手に取るように分かる。非常に業腹だが、戸部の言葉に間違いはなく、田辺は唇を歪めた。
「いくらお前らが、この俺を批判しようとも、世間はこちらの味方だ。分かるか?これだけでも大きな隔たりがあるんだよ。そもそも、どう動こうが矮小な者に国を覆すなどできるはずもない」
「......わかっていないのは貴方ではないですか?」
戸部の耳に届いた浜岡の声に、不快そうに眉をひそめて、戸部は短く返す。
「負け惜しみを......」
「いえ、そうではありませんよ。どうも聞いている限りでは、貴方は些か古いようです。歴史を引き合いに出しますが、過去を振り返れば、大きな力というものは、小さな力に滅ぼされているのですよ。最近の例を出せば、八十年代のルーマニアで共産政党をふるっていたニコラエ・チャウシェスク、彼の独裁的な政治は、民衆の力により破壊されました。そう、貴方の言う巨大な権力に立ち向かった結果です」
戸部は鼻を鳴らす。
「はっ!何を引き合いにだすかと思えば、そんなことか?それは、先に起きた他国の運動に触発されただけだろうに」
「......事実を隠しても、それが歴史になることはない。それが世の常というものですよ」
痛いところを突かれたのだろうか。途端、戸部の笑みから余裕が消えたかと思えば、きつく歯軋りをして眉間に深い皺が刻まれた。誘導に陥った時のような悔し顔を浮かべたまま、浜岡を睨み付ける。
「......浜岡といったな?」
「はい、そのとおりですが」
「お前は危険だ。味方には引き入れない。これから先、俺の障害になりうるかもな」
すっ、と戸部は拳銃を持ち上げて、浜岡の額に銃口を合わせた。斎藤が動き出す直前、鋭く戸部が叫ぶ。
「動くな!」
くっ、と爪先に力を入れて踏みとどまる斎藤を横目に一瞥し、戸部は続ける。
「国は人がいなければ動かない。経済も、環境も、歴史もだ。そして、日本を動かすのは、この俺だ。この地位につくまで、どれだけの辛酸を舐めてきたか、お前に分かるか?」
「分かりたくもありませんね。独善的な語り口しか聞いていませんから」
「減らず口も大概にしろよ!お前、状況は分かっているのか?圧倒的なまでに優位を保っているのはこの俺だぞ!」
「貴方の力ではありませんよ。銃という文明の一部にある力です。虎の威を借りるとは、言い得て妙だと思いませんか?」
凄まじい剣幕で、ふうふう、と肩で息を繰り返しながら、戸部はトリガーへ指を掛けた。一同の動揺から空気が震えている。田辺が喉を鳴らして声をだす。
「戸部さん、罪を重ねないでください......銃を......こちらに......」
「俺に指図するな!」
その瞬間、戸部の身体に強い衝撃が走り、全身を、強く檻に衝突させた。軋みをあげる檻の中へ拳銃が滑り込み、対面にある壁へとぶつかり止まる。
ぎゃああああああああああああああああ!すいません!お休みもらいますと活動報告に書いていたつもりでした
!本当にすみません!!!!!!!!!!!!!!!!!!