感染   作:saijya

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第2部

「なら、気を付けるこったな。今にも引き金を引きそうになる」

 

 ごりっ、と押し付けられた銃口を見上げるように、浜岡の視線が上がった。田辺は、思わず口を挟もうとしてしまうが、すぐに開きかけた唇を結び、うつむいた。下手な口出しは、奴等の怒りを買うだけだ。

 

「どちらにしろ、お前らは黙っているしかないんだよ。分かったか?」

 

「ああ......分かっている」

 

 浜岡の代わりに、斎藤が返す。しかし、その目には、今だ瞋恚の炎が宿っている。それを鼻で一笑した男は、肩をすくねて言う。

 

「ハッピーの意味を知ってるか?幸せって意味だ。お前は、今、幸せを噛み締めているか?神よ、命あることに感謝しますってよ」

 

「生憎、俺は仏教徒なんでな。神って奴は信じていないんだよ」

 

「......なら、信じたくなるようにしてやろうか?」

 

 すう、と男の腕と目線が斎藤に移ろうとした時、助手席にいた男の仲間が鋭い口調で口を開いた。

 

「いい加減にしてもらえませんか!聴いてる方がイライラするんですよ!」

 

 声からして、男達の中では若いほうだろう。加えて、敬語ということもあり、田辺達を連行する男達の後輩に当たる立場だ、そう三人の考えが一致した。それは、同時にこの三人を切り崩す一角を見付けたことに繋がる。

 

「あ?テメエは、誰に言ってるのか分かってんのか?」

 

「弱いもの苛めみたいな真似をするアンタよか、理解してますよ」

 

「んだと、コラ!」

 

 そこで、黙然と二人のやり取りを見守っていた運転席に座る男が言った。

 

「二人とも、落ち着け!俺達の仕事は、この三人を送ることだけだ!喧嘩をする必要はない!」

 

「けれど、隊長!先輩の態度は目に余るものがあります!」

 

隊長、そう呼ばれた壮年の男は、助手席の男の意見を一蹴する。

 

「黙れ!」

 

 途端、車内にまたしても沈黙が降りた。隙を突かれる前に、軋轢を潰す男の手腕に、三人は舌を打ちたい気分に陥る。だが、脆い部分は発見した。恐らく、この男達は、チームではなく、方々から集められたグループなのだろう。

 名前や年齢は知っているだろうが、互いに性格の把握を行わず、この作戦の為だけに、集っただけの集団、さきほどのやり取りで、田辺はそんな感想を抱いた。先輩、との呼び方も引っ掛かる。しかし、なんらかの訓練は間違いなく積んでいる。なにより、隊長と呼ばれた男の存在は厄介そうだ。若い二人を出し抜くことはできようとも、壮年の男だけは、こちらの術中に落とせそうもない。


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