「どうやら、のんびりしてる場合じゃなさそうだぞ」
「聞いてたから分かってるよ!クソ!」
真一が煙草を窓から指で弾く前に、浩太がアクセルを踏んだ。相手のトラックは、フロントガラスが無用とばかりに無くなっている。臨戦態勢は整っていた。
対して、二人はカーキ色の荷台が邪魔になり、応射が出来ない。逃げ一手しかない状態だ。
空気を裂く連射音に加え、遠慮なくスピードをあげるトラック相手には、どこまでも分が悪い。
「この先は、一直線の道路だ!どうする浩太!?」
「黙ってろ!舌噛むぞ!」
そんな事は、運転する浩太自身が一番理解していた。国道3号線の案内板を一瞥し、背後に迫るトラックをサイドミラーで視認する。スピードに対する恐怖心はないのだろうか、メーターを振り切るような速度で追い掛けてくるトラックに悪態を吐いた。運転席側のサイドミラーに弾丸が当たり、粉々に砕け散る。
「クソッタレが!真一、マガジンはあと一つだったよな!?」
「ああ!」
「奴らのタイヤを撃つことは出来るか!?」
「この状況で無茶言うな!あいつらが狙えるようならやってやるよ!」
「分かった!任せたぞ!」
にやりと口元を弛ませた浩太は、ハンドルを左へ流した。赤レンガ作りの古い建物が真一の目に飛び込んだ。少しばかり入り組んだその場所は、かつての名残を現在に残す観光名所、門司港レトロだった。先程の言葉の真意を察した。
「確かに、ここなら馬鹿みたいなスピード出せないだろうな」
「折角なら、観光で来たかったよ!」
言いながら、古い街並みの中へトラックを走らせた。止まり切れずに海へ落ちることも、建物にぶつかるなんてことはごめんだ。旧門司税関前を通り、レトロハイマートの外周を回り、ほぼ直進して九州鉄道記念館駅方面へと向かう。
「奴らは来てるか」
サイドミラーを見た真一は、舌打ち混じりに返す。
「ああ、バッチリ。弾はあまり使いたくないんだけどな」
「それはお前の腕次第だろ」
浩太は、記念館脇の駐車場に入り、トラックの助手席が相手に向くように停車させた。距離にして約1500メートル程だろう。二人を追う為に、相手は計算通りスピードを落としていた。真一が窓から銃身を出す。
迫りくるトラック。フロントガラスが反射する光の代わりに火花という閃を上げた銃口に怯まず、真一が引き金を絞った。
5,56ミリ弾が次々に発射されていき、マガジンが空になる寸前、相手のトラックが右に傾き、ダルダルと、妙な回転をしていたタイヤから空気が抜けている事を確認した真一は思わずガッポーズを作った。
「ビンゴ!これで、しはらくは追いかけられないだろ!」
「言ってる場合か、早く逃げるぞ」
浩太が言い終える前に、再び相手のトラックから閃光が走る。だが、その銃弾の着弾地点には、既に二人のトラックはいなかった。
そして、抑揚のない声が無線から流れ出した。
「次だ……次に出会った時、貴様らを我らの同胞に加えてやる」
恐らく、相手は二人組だ。そして、狂気の笑いをあげていた一人よりも、浩太は今しがた無線から流れた声に底気味悪さを憶えた。
風邪ってか、もっと酷い状態だった……
眠気の正体はこれか!?
すっごく頭が痛い