「坂本君のことだけど、祐介君だけで背負おうなんて思わないでね......あたしと加奈子ちゃんだって、彼の気持ちや思いを受けとる覚悟はあるから......」
「......分かってる。ありがとな、阿里沙」
そう言って、祐介は再びハッチを押し上げた。途端に濃ゆくなる死者達の臭いと湿気に、顔をしかめる。細心の注意を払い、目線だけで数を確認する。戦車に張り付いている死者は、四名だった。先ほどの轟音で、散々になったのだろう。
祐介は、目を伏せて彰一の名前を呟き、静かに涙を流し始めた。二人の前では泣けないが、ここなら、声さえ圧し殺せば瞳の雫を溜める必要はない。何度、体験しようと、人の死というものは馴れないものだ。いや、馴れてはいけないものだ。例え、ありふれた日常の一幕であろうとも、現状のように、死が溢れていようとも、決して馴れてはならない。
命を自分だけのものだと考えてはいけない。
祐介は、胸の奥で、熱く鼓動を繰り返す心臓を掴みたい気持ちで一杯になった。ここには、二人の人間が住み着いている。ぎゅっ、と握れば、血と共に、二人が顔を出してくれるような気がした。
「......そんなこと、あるはずないよな」
自嘲気味に、祐介は笑い、彰一の形見となったイングラムと、父親のM360の重さを、はっきりと意識する。命を預ける相手がいるのは、とても幸せなことなんだな、そう胸中で囁けば、涙は自然と止まっていた。祐介にとって、ここからが、本当の闘いになる。人は思っているほど、自分のために生きてはいないのだ。阿里沙、加奈子と共に生き残る為に、祐介は顔をあげた。
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右に迫ってきた使徒の首を左手で掴み、壁に押し付けると、渾身の右拳で殴り付ける。使徒の頬骨が凹み、二発目にして右目が飛び出す。三発目は、もう必要ない。
東は、幼い頃に壮絶な体験をしている。まず、父親や母親がいない。複雑な経緯もない。ゴミ袋に入れられていただけの捨て子だった。運良く拾われはしたが、引き取り手は見付からず、施設に送られることになり、そこで六歳を迎え、地元の小学校へ入学することになる。
同い年に囲まれた共同生活の中で、他の同級生と、何かが決定的に違うと思ったのは、一週間が経過してからだった。授業中に、信号機の話題が出ると、皆が一斉に色を答えていく。赤、青、黄と声が教室に響く。それに潰されてはいたが、一人は白、白、白、と言う。
色が持つ力なんてものが、東には理解出来なかった。同級生もそうだ。そこに立っている何か、としか認識していなかった。他と違うというのは、とても退屈なことだった。
タイトルミスってました。すいません……
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