今は、出来ることをやっていくしかない。だとすれば、優先的に思考すべきは斎藤の疑問にもあがった連絡手段だろう。どうすれば、こちらに連絡がとれるだろうか。
まず、浮かぶのは電話だ。しかし、現状の九州では電波が入らない。次はラジオ、それも駄目だ。近場の小倉や天神のラジオ局は、既に破壊されているだろうし、そもそも、他の誰が聞いているのかも分からないのに、危険な放送を流す筈がない。となれば、手紙だろうか。これには、田辺も即座に首を振った。もっと特別な連絡手段がある。必ず、どこかにある筈だ。そう、例えば、どれだけ電波が悪くとも、通信が入る特殊な電話などないだろうか。
田辺の沈んでいた顔の影が明るくなった。
「......そうか、確か前に......」
頭のすみに追いやっていた記憶が、ふと浮上してきた。斎藤と意見を出しあっていた浜岡が、田辺の様子が変わったことに気付く。
「浜岡さん、前に通信会社の男性にインタビューをとった時のことを覚えていますか?」
浜岡は、しばし黙考すると、顎を下げて言った。
「ああ、そういえばあったね。確か、災害時の供えで特集を組んだときだったかな」
「そう、その時の男性に連絡は出来ませんか?」
浜岡の瞼が細くなる。そして、すぐさま携帯を取り出すと、短縮番号を押して耳に当てた。
その間に、斎藤が疑問で縮んだ眉間のまま、田辺に小声で訊いた。
「おい、何か分かったのか?」
「......ええ、随分前の話しになりますし、ただの雑談程度の話しだったので、記憶が曖昧なのですが......」
斎藤が頷いたのを見た田辺は、所在無さげに浜岡を一瞥すると、まだ時間はありそうだと判断し口を開いた。
「斎藤さんは衛生電話というものをご存じですよね?」
「ああ、もちろんだ。仕事にも使う。けれど、いくら範囲が広かろうとも......」
「はい、今の九州地方に連絡をとるのは難しいでしょう。しかし、僕らはその男性から、以前、面白い話しを聞いたことがあります」
斎藤の眉間の皺が、更に深まった。
「それは、政府の許可が下りなければ、使用が出来ないような代物とのことでして、都市伝説みたいな信憑性に欠ける与太話かと思っていましたが、もしかしたら......」
斎藤が喉を鳴らすと、浜岡が声をあげた。
「田辺君、確認がとれたよ。驚くことに、数年前、完成したそうだ。今も許可はいるらしいけどね」
浜岡の言葉に、不安と怒り、そして、悲しみの過渡期が田辺へ訪れると同時に、甲高いインターホンの音が室内に鳴り響いた。
書いたら満足してあげ忘れ再び……