感染   作:saijya

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第19部 死闘

 トラックの荷台に集っていた死者の足音が遠ざかっていく。異変に気付いたのは、真一だった。曳船のようにトラックに付いていたプレオが、いつの間にかいなくなっていた。その後に響いた衝突音に二人は揃って身体を震わせる。

 予定とは違う状況に、自衛官二人は、焦りを隠すことが出来なくなった。なにかしたらのトラブルがあったのだろうか。だとすれば、ここはすぐに引き返し、四人の加勢に回ることが正解なのだろう。しかし、事態はそう簡単にはいかない。件のアパッチが、プレオが離れると同時に、狙ったかの如く動き始めたからだ。トラックを狙うM2重機関銃の銃口が閃くと、浩太は踏み砕く勢いで、スピードを急上昇させ、アパッチの真下を抜けた。中間市の中央通り、そこにはいつもの平凡はない。その証左とばかりに、12.7ミリ弾が雷雨を思わせる速度で降り注ぎ、六百五十発の弾丸が、トラックの荷台に迫っていた死者を、子供が枯れ木を折るような気楽さで撃ち抜いていく。それは、二人の自衛官に、これまで以上の死闘を予感させるには充分だった。

 浩太と真一には、離れてしまった四人との再会を信じるしかない。その確率を少しでも上げる為に、真一は窓からAK47の銃口だけを突きだすと、アパッチに向けて銃弾を放ち意識を逸らした。

 これぐらいしか出来ないが、頼む、無事でいてくれ。

 絶望的な九州地方の闇を塗り潰すような機関銃の煌めきの中、二人の強い願いをぶつけるように、浩太はハンドルを切り、既に爆発物かなにかで破られた形跡のある中間のショッパーズモール別館入口へトラックを衝突させた。

 

                 ※※※ ※※※

 

「彰一ィィィィィィィィィ!」

 

「痛......てぇんだよ!この野郎!」

 

 祐介の叫びを意に介さずに、彰一は、左腕を死者に噛ませたまま、右手でイングラムを握り、銃口を死者の頭に密着させ引き金を引いた。

 激しく頭をブレさせた男性の死者は、彰一の腕を解放すると、そのまま、ぐったりとドアガラスから車内へにのし掛かるような体勢になり、後続の死者の侵入を阻む結果となる。彰一の左腕は、看板に裂かれた傷と、死者の咬傷により、袖まで真っ赤に染まっていた。苦悶に歪む表情で、祐介に言った。

 

「構うな!お前は、その看板で窓を塞ぎ続けろ!」

 

 一人になったことにより、看板に掛けられる圧力が再び増す。祐介は、助手席に背中を預けると、両足で看板を押さえ付け、彰一は、仕留めた死者の首を掴んで、後部座席の破られた窓を塞ぐ。文字通り肉の壁となった死者は、車内に入ろうとする大群に背中を噛み破られ始めた。この分では、そう長くは保たないだろう。

 祐介は、袖の下に隠されている、彰一の噛み傷から目を無理矢理に引き剥がし、阿里沙に呼び掛ける。

 

「中から反応はないのか!」

 

 阿里沙は、必死にシャッターを叩き続ける。その音に寄せられ、死者も数を増してきていた。

 

「なにもない!なにもないよぉ!」




第19部はじまります!!
読みきれてない小説が6冊も溜まってる……

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