プレオに二人が乗り込んだのを見送り、浩太と真一もトラックに乗る。その際に、真一は、ちらり、とトラックのエンジンを横目で見た。果たして、どこまで保ってくれるだろうか。その心中を察した浩太は、ハンドルをきつく握りはするものの、なにかを口にすることはなかった。手の中にある鍵を眺め、グッと、力を込めて回せば、数度の振動の後にエンジンが吹き始める。異臭は、変わっていない。
「......出発するぞ」
「ああ、頼むぜ......」
アクセルを踏めば、トラックは少しずつスピードをあげていく。
とりあえず、トラックの心配は残るものの、動き出すことが出来たので、あとは進み続けるだけだ。真一は、上空のアパッチを見上げる。
「浩太、アパッチに関するもう一つの可能性があるぜ」
浩太は、瞬きを挟み訊いた。
「なんだ?」
「俺達が近づくのを待ってるってことはないか?充分にあり得るぜ?」
鼻から息を吸い、浩太の返事を待つ真一の心境はどんなものだろう。それは、真一自身にも判断しかねる問いかけだった。これから、死地へ赴くというには、先程よりも周囲が見渡せている。浩太が、一笑して言った。
「そんときは、あのクソッタレアパッチの腹に一発喰らわしてやるだけだ」
浩太が向けた右拳に、真一は短く息を吐いて自分の左拳を強くぶつけた。
今までのように、敵は死者だけではない。空からも、陸からも、最悪の場合は動物もだ。真一は、一人、トラックの無機質な天井を見上げ、関門橋での惨劇を思い浮かべ、心臓の位置に手を当てた。頭の中のビジョンは絶対に実現しないけれど、心の中のビジョンは必ず実現できる。真一は、浩太の答えに、こう答えた。
「そりゃ、良い案だ。乗るぜ、浩太」
中間の中央通り、大きな十字路に差し掛かる手前で、真一の声を合図にしたように、トラックはクラクションを高々と鳴らしたあと、速度をあげた。音に振り返った死者達が、容赦なくトラックに撥ね飛ばされていく。
そんな中、後続を走っていたプレオには、アクシデントに起きていた。トラックとほぼ同時に十字路に突入した瞬間、巨体を持った死者がフロントガラスに覆い被さってきたのだ。悪態をついた彰一は、すぐさまハンドルを左に切ることで死者を振り落とし、対処したが、開けた視界の先にあった景色は苦いものだった。一直線な道路、更に奥に見えるのは筑豊電鉄の中間駅だろう。そこから更に先は、長い登り坂になっている。周辺は住宅街であり、雪崩のように死者が押し寄せてくる。彰一は半ば叫ぶように、阿里沙へ尋ねた。
「阿里沙!右に何がある!」
看板で、破損した運転席側のドアガラスを塞いだことが裏目に出た。状況の確認が一手遅れたのだ。それでも、彰一の修正は素早いものだったが、四人がいる場所が、あまりにも悪すぎた。プレオは、直進したトラックとは違い、十字路を完全に左折してしまっている。加えて一直線、つまり、合流するには、一度停車する必要があるのだが、死者に追われている現状、それは不可能だ。ならば、と瞬時に彰一が考えたのは、別ルートでの合流方法だ。しかし、阿里沙の返答は残酷なものだった。
なんか、今日、寒い……