感染   作:saijya

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第10話

                ※※※ ※※※

 

「これを使ってみたらどうだ?」

 

 浩太が祐介に渡したのは、中間のショッパーズモール脇にあるカラオケ屋を案内する看板だった。鉄板を繋げた針金を捻りきり、それを破壊されたドアガラスに当てる。視界が遮られてしまうが、ショッパーズモール周辺の死者に対抗するには、割れたままでは不安が残る。有事の際には、助手席にいる祐介が中から抑えて突破を防ぐ手筈をとる。

 あの広大な面積を誇るショッパーズを悠々と占拠するほどの大群に突入しようというのだから、どれだけ用心しようとも心許ない。しかし、僅かな時間によって生死が別れるのは、確かな事実ともいえる。彰一が、舌打ち混じりにアパッチを睨んだ。

 

「......俺としては、あいつらに動きがないほうが疑問なんだけどな」

 

「ああ、確かに......少し怪しいぜ......」

 

 真一が頷いて同意した。件のアパッチは、中間のショッパーズモールを俯瞰するように、ホバリングを保ったまま動き出す気配はない。何か狙いがあるのか。もしくは、トンネルを塞がれた一行が退くためには、一度は死者の海に飛び込む必要があるとみて、弾丸を渋っているかの、どちらかだろう。なんにしろ、大きなアクションを伴うことになる。浩太が銃に新たな弾倉を込めて言った。

 

「なんにせよ、俺達は文字通り背水の陣だ。進むことは出来ても、退くことは出来ない。だったら、少しでも準備をしておくにこしたことはない」

 

 プレオの後部座席のドアガラスから、真一が差し出したマガジンを受け取った阿里沙は、隣に座る加奈子を抱き寄せた。バックドアガラスは、いくつもの紅い手形に埋め尽くされている。先程の正面突破を敢行した際についたものだが、それが阿里沙の心理状況を如実に語っているように思えた祐介は頭を振った。恐いのは、みんな同じなんだ。恐怖に呑まれれば、行動が一手遅れ、そのまま命取りになる。高まる動悸を静める為に、祐介は、ぎゅっ、と胸を掴んだ。

 

「大丈夫......大丈夫だ......」

 

 深く息を吸って、一気に吐き出す。そんな様子を見ていた彰一が吹き出した。

 

「なんだよ、緊張してんのか?あんまり、ガチガチになっちまうと、守れるもんも守れなくなるぞ」

 

「......お前は平気なのか?」

 

「俺とお前、真一さんに浩太さん、それに阿里沙と加奈子......こんだけ信頼する仲間がいたら何も心配ない。それに......」

 

 トンネルが崩壊した直後、へたり込む寸前だった彰一を支えたのは祐介だった。その熱は、今も彰一を支えている。やっぱり、本当の仲間ってのは良いもんだな、と胸中で呟いて言う。

 

「なにがあろうと、俺がお前らを死なせない。お前も同じ気持ちだろ?」

 

 ぽん、と祐介の肩を叩き、彰一は笑う。それだけで、祐介は曇天な晴れたような気持ちをもてた。二人が揃って、視線をあげた先に待ち受けるものが、どれだけ地獄に近かろうと、きっと上手くいく。祐介は、そう深く心に刻んだ。

 

「そろそろ行こう。準備は良いか?」

 

 浩太の声に、二人は同時に頷いた。




200ページ突破!!
……200てwww

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