安部は、吐息を一つついた。
「あなたが神を口にしますか……留置場に収監されていたのが、あなたじゃなければと、つくづく思いますよ」
「だから、その偶然が俺達を巡り合わせたんだろ?ああーー、運命感じちまうよなぁ」
自らを守るボディーガードにしては申し分ないのだが、 東の野鄙な言動に、安部は大仰に溜め息を吐いた。
「準備が出来たと言っていましたが、確保した車はどこに置いていますか?」
「前に停めてるぜ。しっかし、見物だったんだがなぁ」
「何がですか?」
東が哄然と笑い声をあげ、安部は眉間を狭めた。
「チャチャタウンの前で、呑気に立ちションしてた奴の後ろから喉をかっ切ってやったら、もう大慌て!両手足バタつかせて、喋れねえのに口をパクパクさせてよぉ……久しぶりにファックしたくなる位、興奮したぜぇ……」
腰を前後に動かす卑陋な動作を繰り返していた東に阿部が訊いた。
「一般の方でしたか?」
「いや、こんなもんまで持ってたから、自衛官だろうな」
東が投げ渡したのは、血塗れになりながらも光を反射させるほど磨かれた銀色のプレートだった。個人情報が彫られている。愛おしそうにしばらく眺め、黙祷を捧げた安部は囁くような声量で名前を呟き、口を開いた。
「ドッグタグ……ですね。自衛官か……良い使徒が生まれそうです」
ドッグタグを牧師から流れた血溜まりに放る。
「行きましょうか。もう、ここに用はありません。武器の準備も良いですか?」
「ああ、そいつが乗ってたトラックにたーーんまりと置いてあったよ。一石二鳥たぁ、まさにこの事だよなぁ!」
神の使いを名乗る以上、まずは品性を身に付けさせる必要があるな、と考えながら、 ひゃはははは、と下劣に笑う東の脇を安部は通り抜けた。ふと、窓に目をやると、使徒が集まり始めていた。少々、騒ぎすぎたようだ。
「あーーらら、今の内に出発するか?囲まれたら厄介だろ?」
「誰のせいだと思っているんですか」
安部は教会の重厚な扉を開く。呻き声が四方から聞こえてくるが、慌てる素振りもなく、二人は車に乗り込んだ。助手席に座った安部に東が尋ねる。
「さて、まずはどうするよ?」
「生き残りを探して我らの同胞に加えます」
「断ったら?」
分かりきった質問をわざとらしく投げ掛けた。眼鏡の位置を中指の腹でなおし、安部は答えた。
「決まっています。我々の同胞ではないのならば、使徒となってもらうまでです」
嬉々として、東がアクセルを踏んだ。走り出した車を追いかける使徒達の姿がすぐに見えなくなる。そして、誰もいなくなった教会から、スーダンを着た男が胸にナイフが刺さった状態で現れた。
その首からはキリスト教徒の証とも呼べるロザリオが下げられており、かつて、聖母マリア像が流したという血の涙で紅くなった十字架のように、真っ赤に染まったまま、牧師の胸元で寂しげに揺れていた。
ああ……分かってたけど東嫌い……すごく嫌い……書いててむかつくなぁ、こいつ……重要な役目があるキャラだから我慢しなきゃだけど、気付いたら殺ってしまってそうだw
次回より4章 隔離へ入ります