感染   作:saijya

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第5話

 二人は、立体駐車場の入口から店内に入った。やはり、ここの階段からも暴徒が群れを成して駐車場にあがってきている。その中の多くは、白い服に身を固めた一団だった。改めて見ると、酷烈な姿だ。身体中に咬傷を作られ、眼球は乱暴にかきみだされていたり、袖を漂わせたままの者や、糜爛した皮膚に引っ張られ、喉仏が垂れ下がった者までいる。屍蠟した姿を連想させる程に、外見に目立った傷がない男性もいたが、胸から流れている血の量を見ると、恐らくは僅かな傷を負わされてしまい、自殺をしたが結局は転化してしまったのだろう。

 連なり、重なった暴徒の伸吟は、まるで、この痛みから解放してくれ。早く殺してくれ、と懇願しているようにさえ聴こえる。二人は、一旦、昇り階段の踊場に身を隠し、大群が過ぎ去っていくのを眺めていた。報知器が鳴り響く立体駐車場に消えていき、やがて、最後の一人が通過すると、溜めていた息を一気に吐き出した。

 どうやら、二階にいた暴徒のほとんどが報知器のベルに反応をしていたようだ。

 現在地も、壁に嵌め込まれたパネルで、戦車の一撃で崩落した連絡通路を挟んだ別館、達也が目覚めた寝具コーナーがある三階と判明した。銃口で軽く小突かれ、非難めいた視線で東を見たが、細くなった両目で言葉もなく先を促してくる。二階へ下る階段を俯瞰した達也は、喉を鳴らして一段目に足を掛けた。いくら、報知器の警報音があろうとも、なんらかの切っ掛けがあれば、暴徒達は、達也をも含んで標的とするだけあり、緊張感は拭えない。口内が乾いているにも関わらず、達也は生唾を呑み込みながら、どうにか二階に到着したが、一息つく間もなく、東が達也の背中に言う。

 

「何を休んでんだ?ほら、さっさと進めよ」

 

「進めだと?先に目的地を言えよ。そもそも、お前は俺に、なにをどう協力をしてほしいんだ?」

 

 東は、一度、唾を勢い良く床に吐き出してから、唇を苦々しく上げた。

 

「あの糞いまいましい戦車を、一度、奪おうとして失敗しちまった。筋肉達磨みてえな自衛官一人は、使徒に喰わせたんだが、そっから亀みてえに出てきやがらなくなってよ」

 

「俺がそいつらに呼び掛けろってか?」

 

「察しが良いじゃねえか。おら、分かったら、さっさと歩けよ。とりあえずは、あの連絡通路に行って現場確認だ」

 

 東が間違いなく口にした、自衛官を使徒に喰わせた、という言葉を達也は聞き逃した訳ではない。そこから、戦車にいる自衛官が誰かを探る為に、あえて触れなかった。




なんか、おすすめの海外ドラマとかあれば、どなたか教えてください……w

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