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「世界はいつもある視点から捉えられる。けどな、どこから見るかでその姿さえも変わる。解釈から切り離された事実そのものは、非常に曖昧なものになっちまう。ある視点の段階で、それは根本から覆されても不思議じゃねえ......それは、事実ではなかった、というだけのことだよ。見解の相違、食い違い、意見の対立、そんなものは世の中に腐るほど溢れている。国会議員の最初の仕事は、派閥の違う議員への野次や罵声と言われているが、あれこそが良い例だ。いつも、ある視点から捉えられた議題に、納得がいかないと噛みつく奴がいて、結論があやふやになった問題はいくつもある。それぞれの視点が、それぞれの解釈を生み、事実が螺曲がるんだよ」
達也の後頭部に、直接語りかけるような抑揚のない声が続く。
「つまり、一人一人に、それぞれの解釈があり、事実がある。けどな、唯一、決して変えられない事実が一つだけ存在する。それは、死だ。それだけは、人が死んだという事実だけは変わらずにあり続ける。何千年も積み重なった歴史の中、大陸は広がり、技術は進み、娯楽は色を変え、種族は増えた。だが、どんなものにも、いずれは訪れ、決して逃れられないもの、それが死だ」
読経のような、独特な語り口が一度閉じられた。火災報知器が響く駐車場を二人の男が歩いている。そして、この二人には、明確な差があると一目で分かる。一人は、後頭部に銃口を当てられているからだ。生かすも殺すも自由、人間にとってもっとも避けるべき事態に陥っている自衛官は、それでも声を絞って言った。
「東......テメエの糞みてえな高説は聞き飽きてんだよ」
「そう言うなよ自衛官......これは、一人の男が、こんなクソッタレな世界に置かれた中で、初めて友達ってやつを作るハートフルストーリーだぜ?」
喉よりも更に奥で、東は嗤った。
「死ぬってのはな、誰よりも、何よりも平等なんだよ。言い換えりゃあ誰もが持ってて当たり前の権利だ。それを奪う時の感覚は、もう最高だぜ?人間一人をなすがままにするってとこに、俺は毎回、痺れてる」
「そりゃあ、お前が歪んでるだけだろうが......!」
「俺だけが歪んでる、みたいな言い方をするなよ。こいつは、俺の持論なんだけどよお......カール・アドルフ・アイヒマンは、推定六百万人の人間を殺した。けどよ、戦争中にそれを咎めた奴が国内にいたか?むしろ、褒め称えられていたんだぜ?これが、曖昧な事実ってやつだ」
達也は奥歯を噛んだ。
「それは、時代がそうさせていただけだ......!」
「そこが、曖昧だって言ってんだよ。殺人は殺人だ。許されることじゃないってことぐらいは俺にも分かる。だがな......」
東は、銃口を、ゴリッ、と押し付ける。
「現代における、この九州の現状はなんだ?アナーキストの吹き溜まりか?違うだろう?これこそが戦争だろうが......使徒が生き残るか、俺達みたいな奴等が生存するか......これは奴等と俺達の戦争だろう?」
達也は、小さく舌を打った。
「小金井の話しを聴いた限りじゃ、テメエらは、盲目のファシズムだろ」
「きひひひひ......そこまで言うならよお......テメエは誰も殺しちゃいねえのか?」
「......こうなる前からイカれてたテメエに何言われても説得力ねえよチビ」
達也には一つの疑問が浮かんでいた。
お気に入り鈴200件突破!!……え?200!?って思わず二度見してしまいました……
そして、もうすぐ200Pいきそうですね
いやあ、文字も20万突破しましたね
おお!!2が一杯!!w
本当にありがとう御座います!!これからもよろしくお願いします!!