感染   作:saijya

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第13話

 達也は、少しばかりの余裕をもって思考を巡らせた。今、四階にいるのは、達也一人だけだろう。そもそも、モール内に生き残りはいるのだろうか。生き残りの候補に挙がるのは、あの狂人である東、そして、そんな東が付き従っていた安部という細身の男だ。次に、戦車内部にあるであろう自衛官数名、それ以上を望むことは出来ない。生きていたとしても、恐らくは、なんらかの傷を負っている、もしくは、自分達だけのコミュニティを築いてある可能性が高い。そこに強引に入り込むことは、到底不可能だ。

達也の次なる任務は、あのアパッチをどうにかして撃墜することだろう。その為には、やはり仲間が必要だが、それ以上に武器がいる。どちらを優先するか。

 幸いにも、ショッパーズモールなので、日用品を工夫すればその場繋ぎの槍くらいなら作れるだろうし、スポーツ用品を揃えているテナントがあれば、金属バッドなどもあるだろう。

 

「......やっぱ、優先するなら仲間か」

 

 そうと決まれば、行動を開始した。一縷の望みに掛けるような、心許なさではあるが、達也にとっての味方といえば自衛官だった。あの七四式戦車が、どういった理由で攻撃をしてきたのは分からないが、誰が乗っているのかを確かめたい気持ちもある。

 達也は、立体駐車場の下りスロープを利用して三階へ向かった。やはり、駐車場の中央と反対側の柵には、暴徒にがたむろしていたが、アパッチのブロペラと報知器の騒音で達也には気付いていない。思わぬ僥倖が続き、ついついほくそ笑んでしまった。それがいけなかった。突然、ひやりとした冷たい感触が、達也の後頭部を押した。背後から接近してきた小柄な男に気づけなかった。

 

「よお......また会えたな、自衛官」

 

 反射的に両手を挙げた。このまとわりつくような独特な話口、他ならない奴しかいない。

達也は、喉から声を絞り出した。

 

「ひ......東......お前......」

 

「何故、生きてるか、か?単純な事だろ?いやぁ、生きてるって素晴らしいよなぁ」

 

 戦車の砲撃以来、暴徒の多くは東を狙っていた。あの海嘯のように押し寄せる人数を、たった一人で切り抜いていたことが信じられなかった。しかし、現にこうして、銃口を突き付けている。達也は、唾を呑み込んで目だけで振り返った。

 

「......俺を殺すのか?」

 

「いや、ここでお前を殺すのは少し都合が悪いな......本当ならいますぐぶっ放してやりてえけど、この報知器を鳴らしたのテメエだろ?」

 

 ぐっ、と銃を押し付けられ、低く唸りつつ、首を縦に動かした。東が達也の頭を、まるで子供を誉めるように撫でる。

 

「お前のお陰で随分と動きやすくなったよ。だが、逆に使徒に気付かれた場合が厄介になった。だからよお.....テメエには少しばかり協力してもらうぜ?それまで、命は預かってやる」

 

「......断ったら?」

 

「......一つ良いことを教えてやるよ。その言葉は交渉だ。それはな、立場の同じ人間同士だけでしか交わされない言葉だ。前にも言ったよな?立場ってもんを、ちゃんと理解してるのか自衛官?」

 

 達也の背後から聞こえてきたのは、東のほくそ笑んだような小さな声だった。




次回より第18部にはいります
……ははは、20部のタイトルは決まっているのに19部が決まらない
思いつき次第、ここに記載します!

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