感染   作:saijya

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第12話

 それは、浩太達だけでなく、押し寄せていた死者達も揃って足を止める程の大音量だった。それも、次第に大きくなっていく。

 音の発信源を探し始めた浩太は、それが、目的地である中間のショッパーズモールからだと、ほどなくして気付いた。まるで、誂えたようなタイミングだと安堵するよりも早く、やはり、あのショッパーズに内には、誰かがいる可能性があるのだ、という確信が大きくなった気持ちの方が強かった。

 やがて、トラックに向かってきていた大半の死者は、吸い込まれるように中間のショッパーズモールへ引き返していく。恐らく、火災報知器の類いだろう。連動して響き渡る音は、限界点に達したようだが、それだけで充分すぎた。サプレッサーを点けた状態ならば、多数の死者に気づかれることもない。軽自動車が、一度、バックして死者の群れから距離をとってトラックの隣へ並んだ頃には、数度の射撃で周辺を徘徊していた死者を倒すに終わり、祐介が助手席から慌てて降りると、トラックのドアを叩いた。

 

「二人とも無事ですか!?」

 

 浩太は、ふう、と吐息をついて、情けない程に震える手でドアを開いた。今になって、恐怖が蓋を外したように溢れ出してきたのだろう。

 崩れ落ちるように、トラックから落ちた浩太を祐介が抱えた。

 

「浩太さん!」

 

「ああ......大丈夫だ、安心しろ......ただ、ちょっと疲れちまった......」

 

 玉のような汗により、シャツが肌に張り付いているのか、少し湿った感触がある。それは、真一も同じなのだろうか、助手席で項垂れていた顔をあげ、天井に大きく息を吐き、口元を押さえていた。極度の緊張から、嘔吐する寸前なのだろう。祐介は、プレオに軽く振り返り、残る三人へ二人の無事を伝える為に頷いた。

 

「しかし、この爆音は......凄いですね......」

 

「だな......でも、これで救われた上に、収穫もあった」

 

 収穫、と怪訝そうに眉を寄せた祐介へ浩太は荒い息を整える前に言った。

 

「この警報音は、モールの中にいる人間が、なんらかのアクションを起こさなければ鳴らないだろ」

 

 目を丸くした祐介は、一連の流れに対し合点がいったのか、中間のショッパーズモールへ顔を向けた。死者にそんな知恵があるとは思えない。行き着く答えは一つだけだ。

 

「つまり......誰かが確実にモールにいるって意味ですか?」

 

 浩太は、深く首肯すると、祐介と同じく、あと、数メートル先に鎮座する大規模なショッパーズモールの外観を眺めた。

 

                ※※※ ※※※

 

「はは......ははははは!はっはーー!よっしゃあ!大成功だこの野郎!」

 

 年甲斐もなく、太股を叩いてはしゃいでいるのは達也だった。

 四階の駐車場に設置されていた火災報知器は、予想に反して連動型だった事が功を成した。本来ならば、暴徒に気づかれる前に、音の発信源であるその場を離れなければならないのだが、いたるところで鳴り響き始めた結果、暴徒も達也の居場所を特定出来ていないようだ。それに加え、暴徒達は報知器がある柱に突進すらしている。一石二鳥とはこのことだ。




最近、書いたら満足してあげ忘れてしまう……気をつけます……

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