感染   作:saijya

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第11話

 トラックは速度を上昇させた。左手に寿司屋が見えるということは、もう中腹を過ぎた辺りだろう。

 まだだ、まだ、足りない。軽自動車から再びクラクションが鳴らされた。出過ぎている、そのような警告だ。その度に、彰一もアクセルを踏まなければならないのだから、 車体の限界を迎えつつあるのだろう。

 浩太は、真一にM16のチェックを任せながらも、目線だけは押し寄せる死者から外さなかった。車内に、はっきりとオイルが焦げる匂いが漂い始める。トラックの全面的は、あちこちに凹みが目立ち、その様相は廃車同然だ。見た目にも、中身でも、もはやどうやって走っているのか分からない。

 

「......二人でどれだけ保つと思う?」

 

「死ぬつもりはないけど......引き付けられて三十分が限界だと思うぜ」

 

 浩太は、喉の奥で小さく笑った。

 

「死ぬつもりはない......か。俺も同意見だな」

 

「そりゃあな、あいつらなら、なんとか助けてくれるぜ」

 

「でも、怒るだろうな」

 

「......ああ、多分、祐介辺りは本気で怒ると思うぜ。個人的にはそっちのほうが怖い」

 

 そんな言葉に、浩太は声をあげて爆笑した。死者の返り血で全身が重味を増していく中での笑いだ。真一は、ついに気が触れたのかと不安げに盗み見たが、次第に吊られてしまう。

 外での凄惨な光景とのギャップが可笑しくて堪らなかった。こんな現場に身を投げ出そうとしていながら、生き残った際の心配をしている心持ちが、どことなく、キチガイ染みているみたいだった。

 

「......さてと、そんじゃあ、そろそろスピードも良い頃だろ」

 

 強引に強行を足した突破のお陰だろう。既に中間のショッパーズモールの一部は顔を覗かせている。だが、同時にトラックはいつ停まってもおかしくはない。そして、囲んでいる死者の数も増してきている。アパッチが、ただ静観しているだけなのは、関門橋でのミスを犯さない為だろう。事実、アパッチからの攻撃がないぶん、手痛い状況に追い込まれていた。

 真一は、浩太の言葉に対して頷いて、銃を膝の上に置く。

 

「......合図はいるか?」

 

 浩太は首を振り、真一側のミラーから、後ろの軽自動車を一目見た。

 

「ああ、頼むよ」

 

 ついに、トラックのスピードは、目に見えて急速に下がり始めた。数秒後には、四人が乗るプレオに抜かれてしまうだろう。その前に、二人はトラックの速度を出来るだけ上げ続け、飛び降りる算段をたてていた。二人はドアハンドルへ同時に手を掛ける。

 深呼吸を挟み、真一がまさに声を出そうとした時、猛烈な甲高い音が鳴り響いた。


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