感染   作:saijya

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第8話

 新たに吸い込まれた空気は、口内へ濃い血の臭いとともに、鼻から侵入する。もう、その香りに慣れてしまった自分が嫌になる。ほとんど、獣と変わらないな、と乾いた笑みを浮かべ、達也は首を振る。小金井は死に、浩太や真一はどこにいるかすら分からず、改めて一人なんだと自覚し、目尻を下げれば、自分の腕が目に入る。小金井から託された意思が宿る右手をきつく握り締めると、東と安部にぶつけるまで、一人だろうとも生き抜く覚悟を達也は決めなくてはならない。心細いなど泣き言を口にしている場合ではないのだ。

 達也は立ち上がると、逃げるよりも、アパッチが飛び去った方角、つまりは、中間のトンネルがある方へ走り柵に手を掛け、飛び去った原因を探ることにした。あの兵器が敵にある以上、偵察をしておくことに損はない筈だ。うまく事を運べば、関門橋でアパッチを利用した時のように、活路を切り出せるかもしれないという考えからの発想だった。トンネルの入口を抜けた先は、下り坂になっており、それに伴って雑木林の高さも下がっていく。こちらからは、トンネル付近の様子が良く見える。

そして、達也は目を剥いた。見覚えのあるトラックが、ミサイルによって破壊されたトンネルの前で立ち往生していたのだ。

 達也が、夢かもしれないと思うほどに、現実離れした光景だった。信じられずに、自らの頬をつねった程だ。脇に控えた軽自動車がトンネルの上部に登っていく途中、達也は人違いでも構わないと思考を改めた。なんにせよ、あのトラックには、ここにいるそれなりの理由がある。それが、なんなのか分からない以上、判断材料は理論の中に存在しない。ならば、達也は感情で動くしかない。

 自問自答を始め、結果に行き着いた達也のすべきことは、人間として、どう行動するかに傾いた。

 あのトラックと車の持ち主を助け出す。

 そうと決まれば、達也の役割はなんだ。暴徒を引き寄せること、アパッチへの対処だ。それには、どうすれば良い。

 

「......そうだ......あれなら......!」

 

 達也はすぐさま、踵を返して走り出した。

 

                  ※※※ ※※※

 

 サイコパスの定義とはなんだろうか。生まれながらにもったものだとすれば良い例がある。メアリー・ベルという少女がいた。年齢にして僅か十歳の女の子は、ある日、友人と三歳の子供を殺めた挙げ句、被害者の母親へ葬儀の日に、子供がいなくなったことへついて質問を繰り返した。

 ほどなくして、逮捕されたメアリー・ベルは、将来は看護婦になりたいと答える。理由は、合法的に人へ針が刺せるからというものだ。これだけで、サイコパスは先天的なものだと思われるだろう。

 しかし、東の見解は違い、サイコパスは強い悪意を持つ者ではなく、強い悪意を咎める気持ちがない者だというものだった。

 ならば、この無法地帯のような九州地方はどうだろう。




テーマが難しくて、短編は挫折しましたw

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