彰一は、こめかみをバッドで叩かれるような力強い言葉だと感じた。そうだ、俺達は生きている。なら、諦めるのはその後で良いじゃないか。人間は生きている限り、どんな困難にも立ち向かうことが出来る。
彰一が口にだそうとした提案は、楽になりたいとかじゃなく、仲間を助けたい、そんな気持ちからきた咄嗟の一言だった。しかし、そうじゃない。助け合える仲間がいる内は、絶対に全員で生き抜いてやる、という覚悟が必要だった。
彰一は、自分の情けなさを弾き飛ばすように、自身の右拳で頬を打った。突然の出来事に、狭い車内に生まれた動揺は、彰一の短い一笑で消える。
「しょ......彰一?」
「......ああ、大丈夫だ。もう、大丈夫......祐介、運転変われ......それと、みんな!」
一同を見回した彰一は、そこで言葉を区切り、祐介で視線を定めた。
「絶対に生きて突破してやろうぜ」
車内が活気で満ちていき、やがて、高いハイタッチの音が響いた。
※※※ ※※※
トンネルの上から、祐介の声が聞こえた時、トラックと死者の群れの距離は、約数百メートルに迫っていた。二人はジリジリと、トラックまで後退し、先に浩太が運転席に乗り込んだ。僅かに遅れて、真一が助手席に乗り、足元に置いておいた新しいマガジンを浩太と自身の武器に叩き込んだ。ほぼ、同時にトラックが動き出すと、不意にハンドルを握る浩太が言った。
「なんか、あの時と似てるな......」
真一は深くは尋ねずに、一つだけ首肯だけを返した。逃げ場を奪われ、大量の死者に狙われる。それは、目の前で関門橋を破壊された時と、どこまでも同じだった。死者が一斉に押し寄せる地響きにも似た音までもが同じだ。違うのは、下が地面だという点と、達也や下澤がいないというところだ。あの時は、関門橋の封鎖を担当した岩下の間違いもあり多数の犠牲者を出し、自らも危機に瀕してしまった。
しかし、浩太の心は、あの一件とは違い微塵も不安も抱えていない。浩太には、それが不思議だった。今だってそうだ。絶対になんとかなる、そんな自信がある。
「顔、笑ってるぜ?」
真一の楽しそうな声音に、浩太は破顔する。
「お前こそな」
何故だろうか、絶望的とも言える状況に変わりはなのに、笑顔になれるのは。何故だろうか、こうも憂慮のない晴れた気持ちでいられるのは。
トラックがトンネルの真上に到着すると、プレオの助手席にいる祐介が、ぐっ、と親指を立てているのが見え、真一は巧笑を覗かせて拳を突き出した。
「浩太、お前の考えていることの答えを教えてやるぜ」
浩太は、莞爾として笑う。
「一応、答えは出てるけどな。念のために訊いてやるよ」
トラックを停止させると、真一は手榴弾を二つ持って助手席を降りた。
「それはな......俺達の後ろには、どんな人間よりも、信頼の置ける仲間がいるから......だぜ」
間違いない、と浩太が返すよりも早く、真一は怒濤のように迫りくる死者の群れを見下ろした。この事件が起きたあの日から、今日、この時に得られた仲間は欠けがえのない大切な絆で結ばれている。この六人なら、これから先に待ち受けるどんな困難にも負けないだろう。六人が積み上げてきたものは、どんな銃弾よりも、襲いくる死を形作る者達よりも、強く、固く、太く、そして、大きい。
そんな事を思いつつ、真一は手榴弾のピンを抜き、力一杯、死者の海へと投げ入れた。
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