豪快な音をたてて崩れたトンネルの入り口に一行は呆然とした。逃げ場が完全に奪われ、プランは容易く瓦解してしまった。アパッチは、けたたましいモーター音を出しながら、その高度を上げていき、やがて、中間のショッパーズモールへと引き上げていく。乗組員が持つ機関銃ならば、六人を射殺出来る筈だが、そうはしない。それは、弾丸を使うまでもないという意味だろう。
一拍遅れて、祐介達が乗り込むプレオも到着し、目の前に広がる厭世の始まりのような光景に絶句する。背後からは、死者の群れ、前には行き止まりとなったトンネル、その場にへたりこみそうになった彰一を支えたのは祐介だった。
「......進みましょう」
祐介の提案に、彰一は同調は出来なかった。このまま進んだとしても、先は死者の海、後ろは崩壊し、土砂に埋もれたトンネルだ。こうなったら、俺が囮になる、と彰一が言い掛けた瞬間、真一が口を開いた。
「......だな。ここで立ち止まってる場合じゃねえぜ」
浩太は、周辺を見回すと、トンネル脇の通路を目で辿り、真上に続いているのを視認して言った。
「このトンネル......上は土木作業地帯で囲まれているのか......幸い上り坂になってるし、車に勢いがつく」
「トンネルの真上を貫いて道があるとかは?」
真一の問いを、阿里沙が否定する。
「それはないです。反対に封鎖された旧トンネルがあるんですが、そちらの工事の為に設営された場所なので、こちら側にしか抜け道はありません」
地面を軽く蹴った真一は、AK47の銃口を死者の一団へ向けた。
「お前ら先に車で登れ!後からトラックで追いかけて、そのまま勢いをつけて一気に降りるぜ!」
頷いた祐介は、彰一を引き起こすと助手席に乗せた。
彰一は、信じられなかった。まだ、何か出来ると思っているのだろうか。例え、死者の波を乗り越えたとしても、その奥には明確な敵意を見せつけたアパッチが控えている。彰一は、失意のなか、自身を犠牲にしてでも、全員を逃がす方法を真っ先に思考したのだが、五人は違った。
銃声が鳴り始める。自衛官二人の射撃が始まったのだ。同時に、祐介が車のエンジンを掛け、後部座席の阿里沙と加奈子に振り返る。
「彰一みたいに慣れてないけど、我慢してくれよ!」
祐介の運転で、荒々しくもトンネルの上部に到着した。車から急いで降りると、今だ銃を撃ち続けている二人へ叫び、浩太と真一がトラックへ乗り込んだのを見届けると車へ戻った。
「なあ......」
助手席からの弱々しい声は、彰一のものだ。祐介はハンドルを軽く握り答えた。
「なに?」
「お前......なんで真っ先に全員が助かることが前提みたいな提案ができたんだ?」
祐介は、きょとん、とした後に、うーーん、と短く呻いてから言った。
「まだ、俺達が人間だからかな」
第17部はじまるよ!!