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「祐介、これも頼む」
真一は八幡西警察署の拾得物預かり部屋に入り、ちぎられた手首が握っていた拳銃を投げた。それを危なげに受け取った祐介は、死者がいたロッカーに入っていた鞄に詰め込んでいく。暴力団が使用していただけあり、派手で大きな物が多く、鞄の数は四つになっていた。
真一はハンカチをマスク代わりにしてはいるが、やはり一段と濃い匂いは防ぎきれるものではない。同じく、祐介も匂いにあてられて顔色が優れないでいる。それでも、気を保っていられるのは、真一の存在が大きかった。腹に拳銃を一挺だけさしたまま、周囲を見回した真一は立ち上がる。
「さっきので最後みたいだぜ」
祐介は頷いてから鞄に手を掛け、持ち上げようとして顔をしかめた。
「祐介は、こっちの二つを頼む。その二つは俺が持つ」
祐介に渡されたのは弾丸の入った鞄だ。相当な数はあるが、こちらの方がまだ軽いだろう。申し訳なさを感じつつ、祐介が鞄を改めて持ち上げようとした時、小さな足音がした。ぱっ、と顔をあげた祐介へ真一は怪訝そうに言う。
「どうした?」
しっ、と唇に人差し指を当てた祐介は、更に耳を澄ます。死者のように重い足取りではなく、軽快なステップに近く、跳ねるような足取りだった。
まだ、生き残りがいるのだろうか。だとすれば、こんな惨状が広がる中でスキップ移動するなど気が触れているとしか思えない。その足音は、真一の耳にも届き始め、顔付きに剣が表れた。拳銃を抜いて、弾丸が間違いなく装填されているマガジンを確かめてから銃口を警察署の玄関へ向ける。ごくり、と生唾を飲み込んだ二人が聞いていた足音は、ついに大破していた玄関を抜け、二人は互いに顔を見合わせる結果となった。散らばったガラスを踏み砕く音はあるものの姿が見えないのだ。二人の額に大粒の汗が吹き出し、堪えきれずに真一が細い声で言った。
「なあ......俺達は透明人間でも見てるのか?」
だが、その真一の声にスイッチが入ったかのように、足音の速度が上がり、二人はようやく透明人間の正体を知ることが出来た。軽い足取りで歩行し、囁くような声量を聞き取る耳、子供の背丈よりも低い受付台に隠れる体躯、人間ではないのは明らかだろう。
横長に続く受付の切れ間から顔を覗かせたのは一匹の犬だった。緊張の糸が切れた真一は胸を撫で下ろしつつ拳銃を下げると一息吐き出した。受付台の出入り口から見えている犬の舌が、体温の調整をする呼吸に合わせ上下する様がかわいらしく思えた。
私は帰ってきたw