戦車がけたたましい音をたてながらキャタピラを回す。派手に鮮血が散り、四散する死人達を巻き込みつつ、戦車は粗放な方法でショッパーズモール内へと、車体を突き入れた。砲撃で破られた硝子は、鋭利な刃物へ姿を変えている。外にいる男にとって、ギロチンのようなものだ。これほど危険はないだろう。
隙を見て、新崎は唸り声をあげ続ける岩神へ視線を落とす。
両手で抑えた右目からは、おびただしい量の血が指の間から漏れており、傷を確認するために手を離そうとするが、攻め立てるような重苦から頑なに右目を晒そうとしない。外気に当てるだけでも激しい痛みを覚えるのだろう。新崎は、強引に岩神の両手を掴んで、力任せに引き離し口を詰むんだ。岩神の眼球は、瞼を閉じられないほどに露出しており、縦に深い傷口が見受けられる。黒目は潰れ白濁としていた。
岩神が震える声で呻く。
「隊長......俺の......目は......?」
右目は機能を失っていることに気付いているのか、岩神は左目を僅かに開いて新崎にそう問いかけた。新崎は、素人が見ても一目瞭然な状態に首を横に振る。
「駄目だ」
たった三文字を口にした。告げられた現実は岩神の内部に強烈な炎を灯す。
「あの野郎......殺して......やる......絶対に殺してやる!」
瞋恚に燃える岩神は、新崎を押し退けて立ち上がった。アドレナリンの過剰分泌は、焼け火箸を当てられたような痛みを分散させた。新崎が言う。
「奴は車上にいる。今、坂下が振り落とそうと躍起なっているが、まだ落ちてはいないだろうな」
「俺が直接......引導を渡してやる!あんなサイコパス野郎は......殺されて当然だ!」
岩神がガタガタと揺れる戦車を止めるよう指示を出すが、新崎が割って入る。
「待て!奴は拳銃を奪っている。ハッチから出た所を狙われて終わりだ」
苛立たし気に岩神が反駁する。
「なら......どうしろってんだ!眼球と指を......抉られた落とし前はどうつける......!」
見開かれたような右目を一瞥し、新崎が返す。
「お前は貴重な戦力だ。失う訳にはいかない」
「冗談じゃねえ......!泣き寝入りしろってのか!」
「感情的になるな。とにかく今は......」
「うるせえ......こちとら腸が煮え繰り返ってんだ......このまま終わらせるかよ!」
口を開けたハッチへ腕を伸ばす。血走った左目は右目の影響だけではないだろう。
新崎は、手にした拳銃を掲げるように持ち上げると、銃口を岩神の背中に押し当て低く言った。
「岩神、お前の怒りはもっともだ。だがな、失念してやいないか?俺達はなんとしても生き残らなきゃならないんだよ。お前は金、俺は俺の目的の為にだ。これ以上、お前が単独行動を望むのなら、俺は強引にでも止めるぞ」
僅かな沈黙が降り、空気が揺れた。互いに互いを睨み合うこと数秒、空間を裂くような短い破裂音が響く。即座に二人は身を屈めた。
「なーーにを、コソコソやってんだぁ?」
さ・・・・・・さっむい!!!!w