いや、長年に渡り、そんな演技を続けられる筈はない。やはり、何か裏があるのではないのか。大地が信じたいだけなのかもしれないが、精神的に参っている状態で、正常な判断能力が働く訳もなかった。
「間違いに気付いているんなら、やり直せる筈です!違いますか!?」
新崎は、大地を埤堄する。しまった、と口を塞ぐには遅すぎた。立場だけでみれば、大地は人質と変わらない。命の取捨選択は新崎が握っているのだ。狭い車内に不穏な空気が満たされていく。新崎の目付きは、色を無くし、外を徘徊する死体に向けるそれだった。
その気になれば、新崎も戦車の操縦はできる。新崎は、拳銃を握った。
「坂下......お前、自分の立場を理解しているか?」
立ち上がり、大地の額に銃口を付ける。ひやりとした銃口から漂う殺意からの恐怖だろうか。全身から冷たい汗が吹き出し、顎を辿って無機質な車内に音もなく落ちる。
「お前が生きているのは、たった一つの理由だけだ。岩神が操縦ができないというだけなんだよ。俺は他に仕事があるからやらないだけで、操縦は出来る。ただの数合わせ......いや、弾避け、なにかあった時の人質、その程度の価値しかないんだ。分かるか?」
大地は、キリリ、と奥歯を噛んだ。悔しかった。惨めだった。頭を抑えられ、手出しも出来ず、苦楽を共にした仲間を躊躇なく射殺した二人に、なにも言い返せないことが悔しくて堪らなかった。
やはり、新崎に期待を寄せるだけ無駄のようだ。
「......撃てよ」
「ん?」
「撃てよ!あの二人みたいに俺のことも撃ち殺せよ!」
車内に反響する大地の声に呼応したかのように、戦車が揺れる。同時に天井からは、なにかが落下したような、ドン!、という短い音が響いた。三人は一斉に天井を見上げる。
「......なんだ?岩神、確認してこい」
新崎は、ホルスターから予備の拳銃を抜いて岩神に投げ渡す。
安全装置が解除された拳銃を右手に持ち、岩神が慎重な手付きでハッチを開いた。わずかな隙間から覗くが、正面にはなんの変化もなく、まっすぐに延びる大砲に手を伸ばす死者が見える。しかし、音だけはそうはいかない。明らかに死者の士気は上がっている。一体、どういうことだ、と訝しがる岩神がハッチをあげて上半身を出した瞬間、頭上から粘りをもった言葉が降ってきた。
「やぁっぱり、自衛官だったか」
突如として現れた男は、開かれたハッチの裏から岩神の顔面を鷲掴むや否や、右手の薬指を岩神の眼球へ突き入れた。
あけましておめでとう御座います
今年も小説ともどもよろしくお願いします
……新年早々、眼球とか何かいてんだ俺ww
完全復活までもうしばらくお待ちください。申し訳ありません