安部と東の従者は、自衛官を誘い出す為に、全て別館に移動させていた。そして、あの砲撃により通路が断たれた今、東はこの館で唯一の生存者となる。
館内に蔓延る使徒は、東だけを追う。これほどの恐怖は生涯で味わったことがなかった。全身の皮膚を破り、身体を引き裂かれそうな感覚に襲われる。
振り返る余裕もなく、階段を駆け下りた東は、踊り場で、また元の場所に戻ったことに気づいた。全ての階段は、あの崩壊した連絡通路に繋がっている。構造を考えれば、当然だ。このままではイタチゴッコだ。安部と再会する前に体力が尽きてしまう。
曲がり角から突如、現れた使徒の胸を押す。自衛官と小金井との争いで武器を落としたことを悔やみつつ、東は冷静になれ、と自身に言い聞かせた。
まず、必要な物はなんだろうか。決まっている、潤沢な武器だろう。ならば、それはどう調達するか。
......あるじゃねえか
東は意企した事を実行に移すべく、崩落した連絡通路に向かった。吹き抜けのホールに厚顔にも鎮座している74式戦車は使徒に囲まれていた。余裕を決め込んでいるのか、ホールの中央から移動をしようとしていない。唇を歪に吊り上げ、背後に迫る使徒が東の背中に触れた瞬間、東は連絡通路から飛び降りた。
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「隊長、ここで止まってなんの意味があるんですか?」
岩神が露骨に眉を寄せながら言った。砲撃後に直進の命令を出して以来、沈黙を守っていた新崎は、何事もなかったかのように背凭れを軋ませる。
「......俺達がここにいる意味はある。このショーパーズモールにいる生き残りを探すのに最適なのは、動く死体共だ。安全に任務を遂行するには、要領よくいかなきゃならんからな」
いわゆる、撒き餌のようなものだと岩神は理解した。わざわざ砲撃を撃ち放つ派手な登場も、死者を呼び寄せる為だと、新崎はどこか不満そうに苦笑する。
徐々に聞こえてくる悲鳴の数が減っていく実感に、たまらず操縦席にいる大地が声を出した。
「......隊長、俺はやっぱり間違ってると思います」
鼻を鳴らして、新崎は返す。
「間違っていることなんざ、お前に言われなくても分かっている。だがな、何度も言うが、もう引き返すことなんか出来ないんだよ」
新崎は大地から逃げるように、顔を背けた。多少の罪悪感は残っているのだろう。隊長としての采配は良く、苦手とする者もいたが慕う人間も多かった。
しかし、それならば、何故、このような悲劇に関わってしまったのか疑問が残る。これまで大地や他の亡くなった自衛官に見せていた顔は演技だったとでも言うのだろうか。
ああーーー!!きついんじゃーーー!!