感染   作:saijya

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第13話

                ※※※  ※※※ 

 

 野田貴子は困惑していた。

 大理石のテーブルを挟んで座る二人組の男は、自分がよく知る田辺という記者の上司と警察官だという。田辺は、現在、浅草警察署に連行され、拘留されており、その田辺から受け取ったメッセージを頼ってここまでやってきたという二人の内、一人、田辺の上司という浜岡が胡散臭い笑顔でカップを持ち上げ、出された紅茶を口に運んだ。マナーは完璧だが、そのどれもが意識的にやっているように見える。ふう、と一息吐いて、カップを置いた浜岡がニコリと微笑んだ。

 

「美味しい紅茶ですね。これは、どちらで?」

 

「......父が海外に出掛けた時に、知人から頂いたものです。確か、会社名はロン......」

 

「ロンネフェルト社の紅茶ですか。ああ、なるほど......美味しい訳だ。我々が飲んでいるものとは一味も二味も違う。香りも良いですね」

 

 貴子は警戒心を解かない。もしもの時の為に、カーテンを全開に開き、尻の下に置いた催涙スプレーを、常に意識から外さなかった。

 ちらり、と一言も発していない警官を名乗る男を盗み見れば、険しい顔つきで紅茶を啜っている。まだ、お互いに探りを入れあっていることぐらいは貴子でも分かったが為に、容易に本題への一言を口に出来ないでいた。そんな膠着状態を打開する一石を投じた浜岡は、もう一度、紅茶を口に含んで飲み干す。

 

「いやぁ、美味しい......やはり、物が違うと味が違いますね。そうは思いませんか?」

 

「それはそうでしょうね。中身が変われば味は違う。外見では値段以外に何も判断できません」

 

浜岡は、大きく手を叩く。

 

「はい、その通りです。外見だけでは中身までは分からない。しかし、安くても美味しいものは沢山あります。メロン等が分かりやすい。同じ味、糖度なのに網目が細かい方が価格が高い。あ、これちょっとしたマメ知識なんですが、ご存じでした?」

 

 貴子は首を振る。この飄々とした態度と言動に、やや辟易してきていた。遠回しな行動に隠れた核心をどうにも見抜けない。恥ずかし気に紅茶の催促をしながら、浜岡は頭を掻いた。傾けるカップが、まるでぐらついた自分の心中のように感じる。警戒心を和らげる為の会話なのか、それとも、やはり、話の核心を切り出すタイミングを窺っているだけなのか。貴子には検討もつかない。眉を寄せ、浜岡に紅茶を注いだカップを渡した。

 

「どうも、ありがとうございます」

 

 こくっ、と喉を鳴らし、浜岡はティーカップの飲み口を指でなぞりつつ言った。

 

「いやぁ、それにしても外見だけでは何も分からないというのは、なんにでも通じることですよね。どこに何が、もしくは誰がいるのか分からない」

 

 浜岡は、懐から折り畳まれたA4サイズほどの用紙を数枚取りだし、一枚一枚を丁寧にテーブルに広げた。全部で五枚ある。斎藤と名乗った警官も興味深そうに、目を細めているのを見た貴子も同様に、視線をテーブルに落とした。




ね…眠い……

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