感染   作:saijya

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第6話

 木枯しが吹いた寒空の下を走っているような閑散とした雰囲気が辺りを包んでおり、人の声はない。軒を連ねる昔ながらの木造住宅、その隣にある公園に車を停め、阿里沙が加奈子を抱えながら、周囲を見渡した。

 

「......なんだか、いつもと感じが違うね」

 

「何を当たり前なこと言ってんだよ」

 

 彰一が運転席から降りながら言うと、阿里沙は落ち込んだように表情を曇らせる。彰一の言葉には、この状況が日常になりつつある、そんなニュアンスが含まれている気がしたからだ。

 阿里沙の考えすぎだというのは分かるが、どうにも悪い方向に頭が流され始めているようだ。

 

「二人共、気を付けろよ。奴等はどこかにいるからな」

 

「分かってるよ」

 

 浩太の注意に彰一が返し、腰に挟んでいた包丁を抜き出す。浩太が先頭に立ち、公園を出ると、生温い風にのり、逃げ場など、どこにも存在しないと訴えるような血の臭いが漂い、四人を包んだ。どれほどの犠牲者がこの鉄竜(地名)の住宅街に眠っているのだろうか。

 四人は、錆びた鉄のような臭いを辿るように歩き続ける。白い壁には不釣り合いな赤い手形、死者になれないほどに食い散らかされている首の無い死体、そして、流れてくる風、無惨な光景を瞼に焼き付けるように、生々しさをもって四人へ現実を叩き付けてきているようだった。

 

「......大丈夫か?阿里沙ちゃん」

 

「私は大丈夫ですけど、加奈子ちゃんは......」

 

 浩太は振り返る。加奈子は、必死に恐怖に耐えているようだった。

 ぎゅっ、と阿里沙の裾を握り締め、下を向き、出来るだけ死体を見ずに歩いている。その姿を痛ましく思い、浩太が励まそうと一歩近づいた時、加奈子の後ろで影が揺れた。短い声を出し、加奈子の両脇に腕を入れて彰一が抱きあげる。

 

「おら、怖いなら無理すんな......」

 

 加奈子は、ぶるぶると震え声もなく泣き出し、不安が爆発したのか彰一の胸元に顔を押し付ける。大きくなる染みを拭うでもなく、彰一は優しく頭を撫でてやっていると、ふと二人の視線に気付き、舌打ちを挟んで言った。

 

「んだよ......なんか、文句あんのかよ......」

 

 はっ、としたように阿里沙が首を振る。

 

「ううん、ごめんね。なんか、うん......意外だなって」

 

「......うるせえな!ほら、さっさと行くぞ!」

 

 悪態をつきつつも、加奈子をおろす様子もなく、スタスタと二人を追い抜いていく。

 

「なんか......変わったなぁ、坂本君」

 

「そうなのか?」

 

「はい、なんていうか......雰囲気が柔らかくなったような気がする」

 

「まあ、あいつは見た目で損をするタイプだろうからな」

 

「実際、この辺りでは有名な不良でしたしね」




……さっむ!!wwww

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