二人の間に、沈黙が流れる。それは、肯定と同じだ。
真一は、決して祐介が楽をしているなど思っていない。勿論、臆病者と罵声を浴びせるつもりもない。
純粋に心配しているのだろう。これから先、達也を救出するには、必ず死者が障害となるのは間違いなく、祐介が一人で襲われでもすれば、窮地を切り抜けられるのだろうか。自分や仲間、市民を自衛官として守る為という名文がある真一や、どこか達観した彰一、それぞれの理由から、望まずして受けたであろう二度目の生を終わらせてきた。それが正しいことだとは思わない。
世間的に見れば、人として正しいのは祐介で、人として間違っているのは真一だ。しかし、綺麗事だけでは生き残れないのも確かだ。
真一は目の前で項垂れる少年にかけるべき言葉を探すことも出来ず、視線を彷徨わせ頭を掻いた時、口火を切るように祐介が言った。
「すいません、真一さん......俺......死者だって元々は生きた人間だと考えると......」
太股の位置で、祐介は拳を固める。それを見た真一は口を開く。
「謝らなくて良いぜ......お前の方が正しいんだからよ」
背中を向けた真一は、自分の両手が赤く染まっているように見え、溜め息をつくと天井を仰ぐ。
「お前は、優しすぎるんだよ......その気持ちを俺達はどっかに置き忘れちまってる」
「......真一さん」
祐介の声に向き直り、真一は続ける。
「綺麗事だけじゃ生き抜けない。けど、汚れていくだけじゃ腐っていくのも早い......結局は、極端なんだよ。だが、こんな世の中にはなっちまった以上、俺達は死者を退ける必要がある。だけどな、俺達だって好きこのんで死者を撃ったり刺したりしてる訳じゃないぜ?」
ここまではわかるな、という意味を込めて真一は言葉を切った。祐介は、渋々といった表情で首肯すると、真一は人差し指を、ぴん、と鼻の筋に沿うように立たせる。
「そこで問題になることがひとつある。自分の中に余裕が無くなることだ。ニュースとかで、流れてくる内容に気分が暗くなったりした経験はあるよな?」
記憶を探っているのか、祐介は少しだけ間を開けて答えた。
「......ある」
「その時に、心から心配した経験はあるか?」
祐介が真っ先に思い出したのは、事件の切っ掛けとなった墜落事故のニュースだった。リポーターが、生存者がいます、と叫んだとき、自分はどう感じた。
......お気の毒に......
この時点で、心配ではなく、諦めに入っている。まさに、対岸の火事だった。自分には関係のない出来事だと考えていた。
ヤバイ……寒い……