感染   作:saijya

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第14部 合流

 この世界には、どこにでも流れというものが存在する。一日の流れ、物流の流れ、人の流れ、仕事の流れ、練習の流れといった具合だろう。

 挙げ出したらキリがないほど、人は流れの中に巻き込まれ続け、やがて、それはルーチンでこなせるようになり、それが当たり前になるのだ。祐介は、日々の流れというものをここに来ると嫌でも思い出す。八幡西警察署は、昨日、死者に占拠され、多数の犠牲が出た墓場のような状況だった。しかし、今はどうだ。もはや、ここには用がないとばかりに、署内は閑散としており、時折、血を存分に吸った書類が風に煽られ床に落ちる以外に何か、もしくは誰かが動いている気配はない。もぬけの殻、そんな言葉がぴったりと当てはまる。

 

「顔色悪いぜ?大丈夫か?」

 

「......はい、どうにか」

 

 昨日から、人が喰われた跡や、喰われている現場を目撃してきた真一ですら、八幡西警察署の玄関に立つと、凄惨な内部に口を押さえたくなる。千切られた腕や足、強引に裂かれた腹から洩れる臓器と臭い。立ち込める空気は、いくら玄関口が破壊されていようと、そう簡単には外に流れてはいかない。

 ましてや、この悪臭の原因となっているのは、祐介にとって顔見知りの警官や同じ街で過ごしてきた人間達だ。無理もない、と真一は胸中で呟き、腹からあがってくる物を飲み込んだ。

 

「お前は見張りでも良いんだぜ?どのみち、先に穴生に向かった浩太達と合流するんだ。死者の数が少ないとはいえ、見張りがいればスムーズに出ていける」

 

 一行が警察署に到着して最初に気づいたのはそこだった。死者の数が極端に減っていたのだ。何か、別の獲物でも見付けたのだろうか、そう話し合ったが、明確な答えは出ずに、最終的には警察署内の武器確保は、二人に任せ、四人は穴生に向かい達也の探索に入ることで落ち着いた。

 当初の予定とは少しズレてしまったが一行にとっては死者がいないのは僥倖だった。しかし、祐介はその分の緊張を抑鬱へと心の中で変換している。若い身であることも考慮すれば、仕方がないのだが、いくら割りきったと思っても割りきれないものもある。そこは、流れでこなせるルーチンとは違う。そんな配慮から、真一はそう提案したが、祐介は首を振った。

 

「いや......すいません、妙な感傷に浸っちゃって......本当に大丈夫ですから。それに......」

 

 言葉を句切り、祐介は目元に浮かんでいた涙を軽く拭う。

 

「俺がいないと、武器を全部、回収できないでしょ?二人でやったほうが効率も良いし、早くみんなと合流できる」

 

 良いこと尽くしだと、祐介は笑った。力の無い乾いた笑みだが、まだ余裕はある証のように感じ、真一は頷いて警察署内部へと顔を向けた。




第14部はじまります!!

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