感染   作:saijya

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第15話

 一人目の男は、小金井を掴んだと同時に、こめかみを貫かれた。

 二人目の老人の飛び掛かりには左腕で受け、眉間へ刃を沈めた。

 抜き遅れたナイフを握った腕は三人目の女に噛まれるが、自由になった左手でナイフを登頂部に突き刺した。だが、四人目の女性でナイフを手放してしまう。小金井は、素手で女性の頭を抱えると、そのまま強引に首をへし折る。

 五人目の子供が、がら空きになった腹部へ、小さな口で、歯を力任せに腹へと埋める。激痛に片目を閉じるが、肘を打ち付けて倒れた隙に顔面を全体重をのせて踏みつける。

 休む間もなく、老婆が小金井の右股に、息つく間もなく、男性が左手に、目を回す暇もなく、女性が左の足首に、次から次へと、小金井の身体に鋭くも鈍い刃のように差し込まれていく歯は、矢継ぎ早に増えていく。

 しかし、小金井は肉を裂かれようと、引きちぎられ食べられようと、傷口を深く抉られようと、決して膝をつかなかった。奥歯が軋みヒビが入ろうとも、小金井は倒れようともしなかった。自分の全身を的にし、噛みつかれながら最初に頭部を貫いた男性へ語りかける。

 

「敵討ちは出来なかったよ......けどさ、信頼できる男に俺の気持ちを預けることが出来たよ......あと、楽にしてやるまで時間がかかって悪かったな」

 

 足首を噛んでいた女性が咬筋力のみで、小金井の骨を砕き、一部を咀嚼すると、ようやくカクリ、と膝を折り、続けざまに駆け寄った男性に飛び付かれ顔面を削られる。

 

古賀さん、生きろよ......生き抜いて、あいつらに俺よりもでけえ一撃をお見舞いしてやれ......

 

 小金井は倒れた。

 

 あいつらを先に逝かせることが出来て良かった......俺もすぐに行くからよ......また、酒でも呑んで馬鹿騒ぎしよう......

 

 小金井の見開かれた眼球に映ったのは、亡き友人の顔と、その一家が横たわる光景だった。

 

                 ※※※ ※※※

 

 遠賀郡水巻町の上空に、騒々しいプロペラのローラー音が響いていた。それに混ざり、時折、重々しい銃声が放たれる。アパッチの操縦士は、不機嫌そのものだった。追加で出された特別任務は、九州地方にいる生き残りを全滅させるというシンプルなものだが、その生き残りを見付けることが難しい。一人見付かるだけでも奇跡といえるだろう。

 そもそも何人いるのか、と辟易しつつ溜め息をついた。

 

「おい、もう少し高度を下げてくれ」

 

「......ああ、分かった」

 

 相棒の指示に、操縦士は素直に従う。返事までに間が開いたことが気になったのか、機銃を担当する男が訊いた。

 

「どうした?なんか、悪いもんにでもあたったか?」

 

「いや、そうじゃない。ただな......こんな場所に生き残りがいる訳がないと思うと、何をしてんだって気分になるんだ」

 

「おいおい、しっかりしてくれよ。そういう油断があるから、あのトラックに逃げられるんだ」

 

 操縦士は、関門橋を破壊したあと、逃げ出したトラックを思いだし唇を噛んだ。あそこで仕留められていれば、この負担も少しは減ったのだろうか。いや、あれだけの速度で建物に衝突して無事な筈がない。やはり、この任務は面倒なことこの上ない。

だが、自分のミスに変わりはないのだ。操縦士は話題を逸らす為に、なにか別の事を口にしようとした時、強烈な爆音が聞こえた。

 二人は、同時に音の方向へ首を回し、機銃を掴んだ相棒が口笛を鳴らす。

 

「こりゃ、一気に任務の負担を減らせるかもな」

 

 そうなれば良いが、と目を細めた操縦士は、音がした方向、つまり、中間のショッパーズモールへとアパッチの車体を傾けた。




次回より弟十四部「合流」に入ります。お気に入り数160突破、及び、UA数22000突破直前です!!
嬉しすぎて、もう......!!
本当にありがとうございます!
個人的に、東VS浜岡ってドロドロの戦いになりそうだなとか思ってます。絶対書かないけど......w
最近、書くことに必死で、折角、書いて頂いた感想に返事が出来なくて申し訳ありません......早くここまで書きたかったんです......
とにかく、ありがとうございます!!これからも頑張ります!!

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