感染   作:saijya

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第9話

 小金井は眉を寄せる。緊張から思考が追い付いていないのもあるが、それ以上に東から感じる気配が逸脱しすぎていた。何かが違う。いつも以上に、空気が重い。

 

「ネクロフィリアはアクロトモフィリアを併せ持つと思われているが、俺はさ、根本が違うと思うんだよ......お前はどう思う?」

 

「さあ......どうなんでしょうね......」

 

 小金井は、東が一歩進むと一歩下がった。達也が潜んでいる位置まで誘導し、二人掛かりで東を仕留める算段だった。達也もそのつもりなのか、ぐっと両手に力を込めた。出来るだけ引き寄せ、一気に攻め切り安部と東を完全に離す。

 

「それこそが違いなんだよ。日本でも少年をバラバラにしてホルマリンの入った金魚鉢に入れて毎晩、眺めていた男の話しまで残っている。それは、アクトモロフィリアだよな」

 

 視線を離す訳にはいかない小金井は、聞きたくない東の講釈に、必死に耳を傾けた。何かに集中しなければ、足の震えを隠せそうになかった。小金井が、これまで東と交わした会話の内容はテレビやニュースで集めた、聞き齧りの知識だけだった。それを拡大解釈し、自分のなかで理解し、どうにか二人に近づいたにすぎない。世界は広い、そういう嗜好の人間もいるんだろうな、ぞんざいな言い方をすれば、そんな感想した抱いてこなかったのだ。

 ネクロフィリア、アクトモロフィリア、そんな言葉を用いられても、なんのことかさっぱり理解出来なかった。

 それは達也も同じだが、両者の見解はここで全く異なった。達也は、ここを逃せば、二人の距離が離れているというこんな絶好の機会は失われると思った。それだけは避けなければならない状況下で、逆に耳寄りな話しだと考えた。

 小金井は返答をする為に、東の話しへ意識を向けるしかない。それだけ東を注意を払うのだから、見付かるわけにもいかない現状、立ち上がれない達也は、小金井の表情に変化が現れないかを見ているだけで良い。

 一階から吹き抜けているモール内、二階は円形になっている為、壁の裏側に隠れるように移動できる上に、すぐに駆け付けることも可能だ。

 小金井がまた一歩下がる。

 

「ネクロフィリアは、まあ、よほど死体が腐り始めたりしない限りは、傷付けることを嫌う傾向にある。ヴェラ・レンツィ、ヴィクトル・アルディッソン、FBIの膨大なプロファイリングにすら当てはまらなかったデニス・ニセルンですら、死体の処理をする時にのみ傷をつけるだけだった」




あったま痛いw

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