そんな達也の思惑は、小金井が続けた言葉に掻き消される。膝裏から重みが外れ、怪訝そうに振り仰いだ達也を無視するように小金井が言った。
「いや、なんでもありません!ただ、大きな鼠がいただけです!」
「鼠だぁ?そいつは良いじゃねえか!外にいる使徒にでも投げてやれよ!」
東の声に頷いて返した小金井は、膝を折って達也へと顔を近づけ、小声で言った。
「なぜ、ここにいる。今はとにかく休めと釘を刺しただろ!」
達也は、何も返せなかった。ただ、あまりにも必死な形相で迫る小金井に、首を動かして反応するだけしか出来なかった。次第に雲行きが怪しくなる。
「どうしたよ!さっさと終わらせて戻ってこいよ!」
小金井を急かす東の大声に、安部を始め、その場にいる全員の視線が集まった。まさか、と小金井の額から一筋の汗が流れる。これ以上の時間稼ぎは出来ない。そう判断した小金井は、淀みなく立ち上がると、一息吸った。
「悪い!鼠が早くて手間取りまして......すぐに戻ります!」
何かを含んだように、両手を合わせて腕を挙げた。そして、小金井が自動扉へと近づこうとしたその時、東が言った。
「ちょっと待てよ、小金井!」
ピクリ、と二人は同時に肩を揺らす。
小金井は、振り返れなかった。最早、冷や汗は身体中に流れている。東が一歩一歩と着実に歩いてきていることが気配で分かる。
達也は、自動扉からの脱出を諦め、出来るだけ東から隠れるように後退した。だが、小金井はこれこそ好奇と考えた。期せずして東と安部の距離は離れている。
「古賀さん......もっと奥だ......奥に下がってくれ」
言われるまでもない。達也は、一階のホールから延びるエスカレーターからは見えない位置まで慎重に下がり、東がエスカレーターを上がりきる前に小金井は振り返り、 さっ、と背中に右手を回す。達也が寝てる間に抜き取ったのだろう。腰に挟んでいたアーミーナイフをしっかりと握る。
東がエスカレーターを上がりきると、小金井は静かに喉を鳴らした。
「よお、小金井......鼠ってのはどこにいんだ?」
東は挑発でもするように、軽く左手を挙げる。見下した目線、嘲笑うような口元。小金井は確信した。間違いなく、東は企みを見抜いている。自然と、ナイフを握る手にも力が入った。
「ああ、鼠なら俺が持ってる。確認が?」
東は喉の奥で微笑を洩らしながら一歩、小金井へ向けて踏み出した。
「死体愛好家、ネクロフィリアって奴には、ある特徴が存在する。なにか分かるか?」
番外編、ミスを犯したので最新ページを削除します。あれです、繋ぎを激しくミスりました……
あと1P挟むつもりが、UPしたと勘違いしてました……