達也は、壁に背中を預けて隠れた。東は、福岡で逮捕され、小倉北警察署に連行されたはずだ。
それが、確か航空機墜落の三日ほど前、それ以前に二人が出会う機会などあるだろうか。東は福岡の小倉で逮捕されている。小倉駅での厳戒態勢は、かつてないほどの規模だったとニュースで言っていた為、いくら東が抵抗しようとも、出会う時間などありはしない
実際は、静かな逮捕だったというが、野次馬の中に安部がいたというのもおかしな話だ。
やはり、安部が拘留中の東を逃がしただけだろう。二人の繋がりは薄いように思える。
ここから脱出するのに排除が必要な東と安部、特に邪魔になるのは、東の存在だ。しかし、安部も見過ごす訳にはいかない。他にも、この集会の目的や動き、小金井は本当に味方なのかどうか、そして、直面する最大の問題は、二人がこれから何をするのかなど、考えは尽きない。
達也は、もう一度、顔を出す。まがりなりにも、一応の人数は揃っている上に、所持している武器が厄介だ。
東のもつ拳銃は、自衛隊でも使用されている。そこから察するに、あの二人は間違いなく自衛官を襲撃している。つまり、小倉基地を脱出する際に積んだ重火器をそのまま所持している可能性が高い。
安部の演説が続く中、敵の火力を計っていた達也が冷や汗をかいたのはその時だった。小金井が達也の存在に気付いている。明らかに、やや上方に意識を向けており、達也と視線が重なった。
達也は、咄嗟に身を翻し隠れたが、遅かったようだ。小金井は、演説中の安部に気を使ってか、東に耳打ちをして、エスカレーターへ足を掛ける。達也の存在を東に伝えたのだろう。悪態をついた達也は中腰のまま逃げ出そうとするが、ぐにゃり、と視界が歪んで、その場に音もなく、うつ伏せに倒れた。急な動きに身体と脳の連動が鈍くなっているのだろう。改めて立ち上がろうとした瞬間、押さえ付けるように、左の膝裏へゴツゴツとした感触が乗った。
「......小金井、てめえ......!」
振り仰いだ先にある小金井の瞳に、達也の姿は写っていなかった。その眼にあるのは、達也から言葉を奪うほどの怒りと戸惑いだった。ここに達也がいること事態、小金井の意にそぐわないのだろう。
達也が小金井の真意を図りかねていると、一階フロアから東が声をあげた。
「小金井!何してんだあ?なんか問題でも起きたのかよ!」
ギクリと達也の心臓が跳ね上がった。ここで、俺の人生は終了かよ、くそったれが……
達也はそう胸中で呟いた。