感染   作:saijya

133 / 432
第5話

 顔の腫れを触ってみれば、まだ熱を持っていたことから、寝静まってさほど時間は経過していないようだった。ベッドから降りると、改めて室内を見渡した。

 どうやら、現在地はモール内部にある二階寝具コーナーのようだ。頭痛を携さえながら歩きだしたが、すぐに膝をついてしまう。割れそうなほどの激痛に、達也は内出血を起こしている可能性もあり、客観的に自己の体調を探る。

 吐き気はない。視界が歪むこともない。ダメージが積み重なったにしては、比較的に軽い症状だろう。とは言え、痛みの発信源は頭部だからか、油断すれば堪えがたい激痛に見舞われる。どうにか這ってベッドに戻り、達也は深く息を吐いた。

 穴生で達也が追われた暴徒の人数は、百に近かった。今になって思えば、よく逃げ切れたものだと思う。だが、それ以上に、浩太と真一は警察署にいた人間を助けることが出来たのかも気になる。思考に隙間を作る余裕が出来たのは、小金井がいたからだろう。少なくとも、はっきりと確定はしていないが、四面楚歌は免れた。それでも、小金井には用心を怠れない、

 なんにしろ、達也に必要なのは休息だ。聞こえてくる暴徒の声は気になるが、壁の厚みでかなり遠い。それを除けば、暗闇が降ったように静かだった。

 ......いや、静かすぎる。

 達也は、そこで違和感を覚え、横たえていた身体を再び起こした。人の話し声も、物を動かす音も、なにかを引き摺るような音も、日常にある、あらゆる音が消えていた。

なにかあったのか。それなら、悲鳴でも聞こえてきそうなものだ。しかし、それもない。

 まるで、頭蓋骨に打ち鳴らされたばかりの鐘を入れられているような疼痛が残る頭を抑えながら、ヨロヨロと立ち上がり、寝具コーナーから左手にある自動扉へ覚束ない足取りで歩いていき、連絡通路へ出ると、そこは東による暴行を受けた場所だと気付く。一階の広間に集結していた暴徒は、ほぼ全員が一ヶ所に集まっていた。その濁った双眸の先には、頑丈に積み上げられたバリケードがある。

 達也の存在を気にもせずに、家を追い出された幼子が、必死に玄関から両親に叫び声をあげるように、暴徒は目の前に佇む障害へと身体をぶつけたり、両手で叩いたり、中には頭突きをかましている奴までいる。

 それは、八幡西警察署の正門バリケードの前で、浩太や真一と見た光景と似ていた。恨めしそうな呻き声が多重に響いてくるだけで、達也の背中を冷たい汗が伝う。これは、つまり、あのバリケードの奥で何かが行われているという明確な証拠だ。

 達也は、出来るだけ足音を消すために匍匐前進の要領で進んでいき、やがて対面に位置していた自動扉へとたどり着いた。




寝ます!!おやすみなさい!!ww
良い夢を!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。