感染   作:saijya

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第3部 生存者 

 上野祐介の日常は、その日を境に消えた。姿を変えたという方が祐介にとって正しいのかもしれない。祐介は、八幡西区市瀬のマンションに住む高校生だ。小学生の頃から始めた野球でスポーツ推薦を貰い、希望が丘高校に入学した。所謂、野球少年だった。

そんな祐介は、昨日の飛行機事故により日課のランニングコースにしていた皿倉山に入れず、しばらくはランニングコースを変更しようと、渋々ながら帰宅したのは朝の7時過ぎ。学校に行く準備を終わらせ、家を出て、部活を終えて帰宅、ニュースは相変わらず飛行機事故の話題で一杯だった。

 食傷気味に、祐介はチャンネルを次々に回したが、どこも流す映像は同じだ。明日に備えて寝るとしよう、そんな考えが頭を掠めた時、不意にレポーターが生存者がいる、そう叫んだ。

 定まらない足取りは、壮絶な事故に巻き込まれ、生き延びた代償かもしれない。だとしたら、神様も随分と酷な事をするものだと祐介は、眉を八の字にした。

だが、所詮は他人事だ。気にしたところでどうする事も出来るはずもく、祐介は床についた。

 そして、黎明の時、祐介は誰か分からない女性の啼泣に飛び起きた。

 まるで腹をくすぐるような、なんともいえない声は、マンションの下から聞こえている。

 祐介が、住んでいるのはマンションの六階だ。すぐさまベランダに出た祐介は、その風景に絶句した。一軒家の玄関に群がる人間、馴染みのラーメン屋の店長が店から飛び出した矢先、近場を歩いていた人に押し倒され、首から噴水のように噴き出した血を皿にした手で掬い上げ、数人で囲い飲んでいる。なにより祐介の目をひいたのは、国道200号線に乱雑に並んだ死体の数と、必死に喰らいつく人間達だ。

 祐介は目眩がした。なんだ、これは一体なんなんだ、何が起きてる。

 

「祐介!起きてるか!祐介!」

 

 聞きなれた声に、祐介は僅かに安堵した。祐介の父親は、警察を生業としている。その父親が狼狽しているのだ。外の凄絶な光景と合わさり、祐介はただ事ではないと直感した。

 

「ああ!起きてるよ!」

 

 祐介が返事をすると同時に、部屋の扉が開かれた。

 

「急いで準備しろ!逃げるぞ!」

 

「ちょっと待てよ親父!逃げるって何からだ!外にいる奴らと関係あるのか!?」

 

 父親は声を張り上げた。

 

「大有りだ!良いか?奴らは死んで甦った化け物なんだ!」

 

「はあ?なんの話しをしてんだよ!」

 

「とにかく説明はあとだ!早く準備しろ!」

 

 要領を得ない内容に祐介は首を傾げた。しかし、異常事態が起きているのは間違いない。

 祐介は手早く着替えを済ませると、なにか武器になりそうなものはないかを探し、部活で使う金属バットを片手に部屋を出た。




第3部始まります!

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