凄まじい光景だ。時には殴り、時には、蹴り倒す。
自衛官二人のチームワークになす統べなく倒されていく死者の人数が瞬く間に増えていく。その数が二十を越える寸前で、二人の動きが止まった。血に染まり、刃先の折れた包丁を投げ捨てた浩太が、べったりと付いた返り血をシャツで拭う。
「一斉に来なかっただけ楽だったな」
事も無げに言ってのける。祐介は、一体どれだけの修羅場を潜ってきたのかと、素直に感嘆の吐息をついた。頼もしい仲間が出来たものだ。
「おい、そんなことしてる暇はないぞ。さっさと、車まで行こうぜ!彰一、車はいつでも発進できるんだよな?」
「ああ、こいつがあればすぐだ」
彰一は握っていたマイナスドライバーを掌で軽く回転させた。
「......マイナスドライバーでどうやって車を動かすのよ」
「知らねえのか?古い車ってのは、ドアやガラスさえ割れれば、マイナスドライバー一本で動かせる」
阿里沙は呆れなのか感心なのか、どちらつかずな目付きで祐介を見るが、その祐介もポケットからマイナスドライバーを覗かせていた。
「......この馬鹿二人みたいには、なっちゃ駄目だよ?加奈子ちゃん」
小首を傾げた加奈子は、恐らく分かってはいないのだろうが、阿里沙の表情から察したのか、こくり、と頷いた。
「よし、じゃあ、行こうぜ浩太」
周囲の哨戒を解いた浩太が振り返ると、五人に緊張が走る。すう、と息を吸って浩太が前を向いた。
「行くぞ!」
六人が一斉に駆け出す。光が入る駐車場出入り口からは、新たな死者が雪崩れ込んできている。数十メートルは離れているが、判断を誤ればすくさま取り囲まれる距離でもある。プレオの後部座席に阿里沙と加奈子が乗り込んだのを確認し、浩太と彰一も座席に座ったが、そこで阿里沙は声をあげることになった。自分の見間違いじゃないのか。いや、この狭い車内で何を間違える。
確かに、運転席に座っているのは彰一だ。
「いや!いやいやいや!なんでよ!?」
阿里沙の攪拌されたように震える声が聞こえたが、彰一は淡々とドライバーを剥き出しになったシリンダーへ差し込んで回した。
弱々しく鳴り響いていたエンジンがかかり、真剣にギアチェンジを行う彰一に助手席の浩太が、まるで教官のように「D」の位置を指で示した。
「ちょっと待って!なんで!?なんでそんなに真剣な顔してるの!運転するのは、岡島さんでしょ!?」
「うっせえよ!オートマ位は誰でも運転出来っつうの!」
「だからってこんな時に!」
カッ、と強い明りが灯り、そこでトラックが動き始め、割れたドアガラスから祐介が叫んだ。
「先に出るぞ!」
唸りをあげてトラックはスピードをあげた。プレオの方も準備が終わり、彰一が右足をアクセルに置く。
死者の一人が運転席側の割れたドアガラスから腕を突き入れるも、彰一は冷静にアクセルを踏みつけた。
「掴まってろよ!」
グン、と重力を増した車内で、阿里沙はこの小さな車体に乗ることになった不運を呪った。
どうか、無事に作戦が終わりますように......