感染   作:saijya

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第7話

 その一線の見極めは、今後の課題となるだろう。そこを見誤ることはできないが、安部は、二人に気付いた使徒を皮切りに、芋づる式のようにこちらの肉を求め続ける集団を見下ろしながら、静かにほくそ笑んだ。

 東が調子を取り戻した今となっては、このモールは難攻不落の要塞と化す。下にいる使徒の数は数百以上、近寄ることもままならない。内部には自身の身を守る男に加え数多の兵隊もいる。よほどのこともない限り、この牙城を崩すことは困難だろう。

 だが、それは、内部に癌が潜んでいないことが前提となる。それこそ、裏切りにでも合わなければの話だ。

 毫末の不安要素も排する必要もある。ならばと、真っ先に安部が気になったのは、小金井に対する東の明らかな不信だ。まずは、そこを解決するべきだろう。僅かでも、東の溜飲が下がるのなら、そちらのケアにも手を抜けない。安部は、東を横目で見てから言った。

 

「東さん、小金井さんへの不信の理由......車で話してくれたこと以外に、なにかあるのなら教えて下さい」

 

               ※※※ ※※※

 

 部屋に集合してから一時間が経過し、六人はようやく作戦が纏まった。まずは、八幡西警察署へ武器の調達へ行く為に二組に別れる。

 トラックには、警察署の内部に詳しい祐介が真一を先導し、陽動のプレオには、黒崎の街に詳しい彰一を始め、残りの三人が乗り込むことで意見が落ち着いた。自衛官二人が別れたのは、何かあった時に、対処に馴れた人間がいた方が良いからだ。更に、緊急時に暴徒と異常者では、対応が遅れる可能性があるので、呼び方を「死者」に統一し万全を期っした。

 鳩首が終わり、各々が配られた武器を片手に簡単な食料をホテルで集めた鞄に詰め込んでいき、六人はホテルの一階ロビーに集まり、割り振られた班で固まる。

祐介と彰一が自動扉を開け、浩太と真一が駐車場へ躍り出る。予想してはいたが、やはり、死者が数人、駐車場に入り込んでいた。

暗い中では分が悪く、二人はホテルの自動扉に一度後退する。扉は並んで通るのは二人が限界だ。

 泥酔状態のような危なげな足取りで、死者の一人が浩太へ両腕を伸ばす。単独ならば、それほど脅威にはならない。首を締める要領で死者の動きを止めると、こめかみへ一突き。動かなくなった死者をそのまま押し倒して後続を巻き込ませると、下敷きになった男の額に刃を突き立てた。頭の上から降ってきた猛りの慟哭は、浩太の背後でサポートに回る真一により掻き消される。




指がかじかみはじめている……

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