「良いから答えて下さい。東さん、あなたの隣にいるのは誰ですか?」
安部の執拗な追求に、東は諦念するも面倒そうな面は変わらない。俺の隣にいる人物、それは......一人しかいないじゃねえか。
「安部さん、あんただ」
東の返答は、一切の陰りも曇りもない晴れやかなものだった。疑念も、猜疑も、懐疑も、疑心も何もかもが排除された、子供が発する一声、そんな無邪気さがある。
純粋な殺人鬼として活動していたからこそ、東はコミュニケーションをそこで行っていたのだろう。つまり、殺人こそが東にとってのコミュニケーションであり、交流だったのだ。相手のことが分からないからこそ、俺はこういう人間だと理解させるために恐怖させ、監察し、思考を読み、相手の裏をかける。はっきり言えば、裏の世界でしか輝けない人間だ。表に立てば、当てられた光に影を奪われる。
東京で東を追っていた男というのは、一般社会に紛れることもなく、加えて東とは何もかもが真逆で、堂々と表通りを歩けるような人間なのだろう。
悪知恵だけで生きてきたような男だからこそ、その東京にいる真逆の男に対して、逃げ一手に徹したのではないだろうか。
理解の押し売りをする我が儘で餓鬼な殺人鬼。これが東の正体だ。
ならば、東の方針を決める保護者になれば良い。それが、もう一度、東の強さを取り戻す方法だと安部は確信していた。
「あなたの隣にいるのは、この私です。それが分かっているのなら、あなたが気にすることは何もありませんよ」
「......どういう意味だ?」
安部は、文字通りに東の隣に立ち言葉を続けた。
「私があなたを光から守ってみせます。あなたは、あらゆる負の面から私を守って下さい。良いですか?よく聞きなさい、私には、あなたが必要なんですよ」
安部は、まるで子供に語り掛けるように、柔らかな笑顔と声を東に振り撒いた。たったそれだけだ。それだけのことで、東の中で渦巻いていた曲悪なものが抜けていき、いつもの調子に戻り、余裕のある笑い声をあげた。
「ひゃっははは!俺を安部さんが守ってくれるって?最高じゃねえか!俺を守れるのかよアンタによ!」
「私とあなたは対等の立場でなければならない。あなたは私の友人ですから」
東は、安部の言葉で自分でも分かっていなかった心の空白を塗り潰される感覚を確かに覚えた。せりあがる嗚咽を堪えられない。安部は、それだけ東の内面に触れることが出来たのだろう。それがどれだけ危うい状態だとしてもだ。今、この瞬間に生まれた絆は、とても危険な関係になるだろうと阿部は理解している。傷が入れば、どこまでも堕ちていく。
小保方さん……いつまでいろいろしてくれるんでしょうかねえ……w